「前から見られたい? 後ろからシーされたい?」
放尿強要つづき。




 ひたすら、首を横に振るばかり。
 口が利けなくなったらしい。
 強く引くと腰を落として抵抗した。

 外に連れ出すまでに、土方の踵は擦り剥けいて、血の跡が線を描いた。




「前から見られたい? 後ろからシーされたい? 選ばせてやんよ」

 腰砕けになってもまだ俺の手を解こうと、ささやかな抵抗……本人は必死の抵抗のつもりなんだが、押したり掴んだりを繰り返す土方に聞いた。
 涙の溜まった睫毛をしばたいて、震える唇をきつく結び、土方は答えない。

「しない、はねえんだよ。二択だ。選べ」
「……ッ!! っーー!」
「俺はどっちでもいいぜ? 早くしたほうがいいんじゃねえの?」

 実際土方の性器の先は滴を湛えていて、内臓の限界を訴えている。

 排尿しても痛くない、という体験ができれば、マシなんじゃないかという実験的な興味があった。
 加えて屈辱は少ないほうがいいだろう。
 敵陣の真ん中で排泄を制限され、性器を露出させられた上に辱しめを受けたことも、この恐怖に無関係ではないはずだ。

 さらに水分を摂らせる。
 今度こそ無理矢理口の中に水をぶち込んだ。がぼがぼ、と溺れるときのような音がしたが、強制的に口を閉じると、行き場のなくなった水はやむなく嚥下された。

 外の風は生温いとはいえ、体を冷やす。
 やがて土方は鳥肌を立てて震え始めた。

「ダム決壊すんぞ」
「ーーっ、ーー!」
「我慢ばっかしてると膀胱炎になって、マジでションベンが染みるようになるから」
「、ッ〜〜〜!」

 遂に土方は声を上げて泣き出した。
 抵抗をやめ、俺に腕を取られたままだらりと膝を落とし、激しく泣いた。

 性的拷問なんぞ受けたことがなかったんだろう。
 それにしても、俺やその辺の男には抱かせるくせに、なぜ高杉はこれほど拒否反応が酷いのか。
 本意ではなかったにせよ、挿入することになったからか。

「なあ、男に突っ込まれるのは大好きなくせに、突っ込むのはそんなに嫌いなの。泣くほど嫌か」
「ちがっ……えっ、ひぐ、あいつッ、中にカテーテル、仕込むって、う、刺してっ、やる、て」
「うわ、それ出来たら高杉捨て身の一芸だわ。できるわけねーだろ、刺されたかよ?」
「わか、なかっ……でも、なに、されるかっ、わかんねっ、から、ひくっ、」


 さかた。
 さかた。
 たすけて。


「怖かったのか……」

 それで、あんなに取り乱して。
 そんなときに咄嗟に出たのが、俺の名前だったのか。

 今度は腹ではなく、胸の奥に熱い塊が押し付けられたような感じがする。
 なんだこれは。
 わからない。

 けれども。


「土方。俺も一緒に小便してやる。だから泣くな」


 この男を、いま安心させたい。
 土方の腕をなるべく離さないように左右の手で交互に持ち変えながら、俺もすべてを脱ぎ捨てた。
 土方の前に座って、膝の上に乗るよう命じる。
 別の危機を感じた土方が体を強張らせる前に、なにもしない、と言った。

「おしっこするだけだから。セックスはしねえ。保証する」
「ひぐっ、ふっ、えぐ、」
「痛くしねえよ」

 その言葉に、土方は考え、視線をさ迷わせた。そしてしばらくして、死の決断したような深刻な面持ちで、そろそろと俺の肩に手をかけた。

「ほら、乗ってこい。つかまってていいから」

 腕を引いて首に回すと、目を見開いて俺を凝視した。
 この男にこんなに穏便な言葉を掛けたのは初めてかもしれない、と遠くのほうで考えた。でも意識は目の前の、美しい男に行ってしまって、余計な考えはすぐに消えた。

 性器をふたつ合わせて慎重に握った。
 土方の身体が反射的に逃げるのを、腰を抱いて止めた。
 じわじわと、俺の腹が温かい体液で濡れていく。

「出てんのか」
「……、っ……!」
「痛くねえ?」
「……ぁう、」
「痛くねえだろ?」
「……あ、」
「怖くもねえ。違うか」
「……」

 唇が三度、開いて閉じた。


『さかた』


 引き寄せられるように、その唇に唇を重ねていた。

 キスするのも初めてだった。

 一瞬そう思ったが、すぐに柔らかい感触に溺れた。





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