目を覚まして、一体コレはどう言う事だと動揺する彼女に赤司っちがついたウソは、次の通りだ。
「ここは、君の居た世界とは別世界だ。君は自分の魔法の副作用で、この世界に来てしまったんだよ。…だが実は、オレ達にも責任がある。好奇心で、ある本に書かれていた"魔法遊び"をためしてみたんだ。それが君の魔法と呼応したに違いない。だから、君が戻る方法を見付けるまでオレ達が力になる。宿には、この男の家を使うといい」
使うて…よくもまあ、それだけの作り話を、この合間に考えられたものだ。…ああ否、「オレ達にも責任がある」と言う部分はあながち間違いではないから、全部がウソだと言えないかもしれない。無表情で一気にまくし立てられては、ただでさえ冷静でない彼女は一層混乱するしかなく、頷くしかしなかった。
まあ、それを狙ってたんだろうけど。そろそろとオレ達を見回してから壁を作るように布団を目元まで被る彼女に、最初に声をかけたのは桃井だった。
「大丈夫、大丈夫だよ!おどろかせてご免ね。私は桃井さつき、宜しくね」
「……」
「僕は黒子テツヤです。貴女の額の手当てをさせて貰いました、いたみは有りませんか?」
「……、…」
「そして、オレは赤司征十郎。緑間真太郎、青峰大輝に紫原敦だ」
「…………」
……一応名前は聞いてくれているようだが、視線は誰にも向けられていない。仕方ない事だが、どうにかしないとと首をひねって居ると。保護者のお前は自分から名乗れと赤司に背中を押され、彼女のすぐ傍に進み出た。
「あー……コンチワ、っス」
「………」
「あ、ええと!赤司っちが話した通り、君の面倒を見る事になりました。名前は、黄瀬涼太っス!宜しく――」
「!!」
「ね!!?」
何て名乗ったら彼女も脅える事がないのか、なるべく刺激しないように、いつも女の子にすように爽やかスマイルで名乗ると。唐突に上半身を起こした彼女に、声が裏返る。何だろう、寧ろ刺激してしまったようだ。彼女は真直ぐにオレを見て、希望を見る瞳で口を開いた。
「リョウタさん、と仰るんですか?」
「う、うん……」
「!!村の近くのおしろに、兵団が有って…其所の団長さんが、リョウタ=キセと言う方なんです!とても強くて、人気が有って、頭もいい方で。そのリョウタさん、ですよね!?」
「………え」
――それは一体、どういう事でしょう。
と言うと思ったら間違いで、実はオレの脳内には、ある心当たりが浮かんでいた。すがって期待の目を向けて来る彼女にどうしようと答えあぐねていると、失礼と肩に手を置いて、少し離れた所にまで連れていかれた。
「……涼太。オレは今の彼女の言葉に、1つ答えが出ている」
「…オレも、っス…」
「え?何々?どう言う事?」
「…彼女はオレ達の考えた魔法使い。なら、彼女の"設定"はオレ達が考えたものと言う事なのだろう、赤司?」
「ああ」
「んー?つまり?」
「…つまり。彼女が話した『リョウタ』と言う団長さんは。僕達のうち、誰かが考えた項目と言う事になるんですね」
否。誰かが、なんて回りくどい言い方をしなくても答えは出ている。冷やかに向けられた黒子の視線を筆頭に、皆の冷たい視線が突き刺さって来た。
「……黄瀬ぇ。お前ホント、クダンネーな」
「う」
いいじゃないか、自分で作ったモノにどんな設定を付加したって!!呆れたような、哀れんだような瞳を一身に受けて涙が出た。赤司は1つ息をついてから、彼女の元まで戻る。
「…期待している所悪いが、それは同名の別人だ。ここに居る涼太は、君の世界に居るリョウタのように強くないし人望も無いし誇らしい者でもない」
「!!(酷い、酷過ぎる!)」
「……そ、ですか」
「(君もそこで納得しないで!!)」