1
「めーちゃーん! ハッピーバースデー!!」
バアン、と勢い良く部屋のドアが開いたかと思えば、大声でそう叫びながら忍が俺の部屋に飛び込んできた。なんだなんだ、一体全体何事だ。ヘッドフォンで音楽を聞きながらネサフをしていた俺は、一瞬きょとんとしてからヘッドフォンを外した。
「ごめん、忍。なに?」
聞こえなかった、と問い返した俺に、めーちゃん酷い! なんて言って忍はムッとした顔を作って見せる。その手には小さな円錐状の何かが握られていた。
「だから、たんじょーびおめでとー、って!」
言うなり、忍の手が円錐形の先端から伸びていた短い紐を引く。ぱあん、と鳴り響く軽い音。宙を舞う紙吹雪。ひらひらと漂うそれに、忍が手にしていたものがクラッカーだと気付いた、次の瞬間。
「……ああ、さんきゅ」
「えっ、反応うっす!」
俺はようやく今日が何日か思い出した。 そうだ、今日は9月9日――俺の誕生日、だ。
壁に掛けられたカレンダーへ視線を遣る。ついこの間9月になったばかりかと思ったら、もう今日は9日か。あっという間に二段目へと突入してしまったカレンダーに、時間の流れの速さをしみじみと実感する。
夏休みが終わり学校が始まったとはいえ、まだまだ暑い日が続く。月が変わったという感覚さえ薄かったため、もとよりそんなに特別意識を持っていなかった自分の誕生日がもうすぐそこに来ていたことになんて気付けなかった。
「てか、スーザンお前よく覚えてたな」
当の本人は忘れてたって言うのに、と言えば「あ、やっぱり忘れてたんだ」との笑いを含んだ声の後に、忍は言った。
「だって、めーちゃんあやドラのプロフとかに誕生日書いてたじゃん」
「だっけ?」
「だよ! てか、俺去年もめーちゃんの誕生日祝ったんだけど?! チャットで!」
「……だっけ?」
「えっ、ちょっと待って。うっそだあ、めーちゃんそれも覚えてないの!?!?」
「や、それは冗談だけど」
さすがにそれは覚えている。
一年ほど前。まだあやドラの世界で出会ったばかりだったというのに、ほぼ毎日のように俺とスーザンとはチャットをしてた。
そして去年の今日もいつもと同じようにチャットをしていたのだけれど、日付が変わった瞬間、急に忍が「めーちゃん、ハッピーバースデー!」とチャットを送ってきたのだった。
それを皮切りに、ログイン表示を隠していたらしい他のネトゲ仲間たちからも次々に俺の誕生日を祝うコメントが飛んできて、嬉しさよりも何よりも先に、まさかの事態にちょっと動揺してしまったことをよく覚えている。
「てか、あれからもう一年経ったのか……」
本当に、時間の流れというやつは早いものだ。たった一年、されど一年。重ねた月日の分だけ、随分色んなものが変わってしまったなあと思う。ワタルとの関係が変わってしまったこととか、忍とリアルの世界で会えたこととか、理一とか出会えたこととか。色々。
そう思うと、なんだか妙に感傷的な気分になってきた。
「じゃあ、めーちゃん、はい!」
俺のしみじみとしたオーラを吹っ飛ばすように、忍は満開の笑顔で何か包みを差し出してくる。薄い四角形のなにかだ。サイズは大体手のひらくらい。
「コレ、俺からのプレゼントね!」
「え、まじで?」
「まじで! 去年はネット越しでしか祝えなかったからね〜、今年は絶対なんかプレゼントするぞー! って意気込んでたんだよね」
どやぁ、と自分の口で効果音を付けながら、忍は俺にその薄い包みを手渡した。まるで壊れ物でも扱うようにそうっと受け取る。見た目通りというか、軽い。なんだろう。
「あけていい?」
「もち!」
間を置かず返ってきた言葉にちょっと笑いそうになりながら、綺麗にかけられたリボンの端へと手を掛ける。どう包んだのかも解らないような繊細なラッピングを解いてしまうのは気が引けたけれど、それよりも中身がなんなのかという探究心のほうが勝ってしまった。
リボンを解いて、なんだか柔らかい素材の包装紙をはがして。そうして、そこから現れたのは。
「っ、ちょ! スーザン! これ、これ……っ!」
「あっはっはっは、めーちゃん、その反応サイコー!」
語尾に大量に草を生やしながら、忍は満足げに驚きに目を見開くを俺を見た。なんというか、期待通りの反応をしてしまったようで少し悔しいけれど、今はそれどころじゃない。
だって、だって。
「こっ、れ……! モン●ン4じゃん!!!!!」
「めーちゃん欲しいって言ってからさー」
「うっわ! うっわー!」
いや、言ったけど。確かに忍と一緒にテレビ見てるとき、ちょうど流れたCM見ながら「モ●ハン4欲しいなー」ってぼそっと零したけど!
まさか、まさかそれを覚えていて、誕生日プレゼントにしてくれるだなんて思うわけないだろう。
「スーザン、実は彼氏力高い疑惑」
「えっ、なにそれ」
「いや、なんとなく。こういうことサラッと出来る男ってモテるだろうなって思って……」
とかなんとか口走りながらも、興奮が収まらない。誕生日を覚えていてくれただけでも相当嬉しいっつーのに、なんだこのサプライズは。
「うわあああああ! うおわあああああああ! ありがとう、忍ありがとう!!!!!」
喜びを抑えきれなくて、思わず、デスクチェアから飛び上がるようにして忍に抱きつく。すると忍は「うおあ!」とか奇声をあげつつもそれを受け止めてくれて、そして笑った。
「俺も買ったから、一緒にプレイしようねー、めーちゃーん!」
「っ、もち!!!!!」
楽しげな忍の声に、俺は勢いよく頷いた。
・
・
・
ヤギ@meemee-yagisan
スーザンに誕プレでモン●ン4貰ったあああああああああああああうわああああああああああああありがとうううううううう!!!!!! twitpic.com/xxxx
- 1 -
[*前] | [次#]