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数回揉み込むようにいじって、下着越しに握り込む。ゆるゆると扱いているうちに俺のものは掌のなかで硬さを増していった。
やがて先端から滲み出た液が下着を濡らし始めたところで、もどかしい刺激に耐え切れなくなる。ボクサーパンのなかへと手を突っ込み直接触れれば、この暑いのにやけに冷たい自分の指先にびくりと肩が跳ねた。
先っぽをぐりぐりと抉るようにして指先で粘液を絡めとる。それを全体になすり付けけながら、ゆっくりと手を上下させた。
「っ、ん……くっ、んん、はあっ」
快楽に身悶えながら枕に顔を押し付ければ、髪にしみ付いた匂いが濃くなる。そのまま大きく息を吸うと、まるで、吉澤のものを扱いているような錯覚に襲われた。
(……アイツ、どんな風にオナニーすんだろ)
普通に扱くだけなのか、オナホールでも使うのか。それにオカズ。オカズは一体なにを使うのだろう。ベタにエロ本か、ネットかなんかで拾ったエロ画像や動画か。もし動画なら、どんなシチュエーションが好きなんだろう。
考えていくうちに、自然と手の動きが早まっていく。髪からする微かな匂いだけでは段々物足りなくなってきて、俺は空いた左手で先程脱ぎ捨てたパーカーを手繰り寄せた。ためらいもせずに顔を埋めると吉澤の匂いがいっぱいに広がった。
――ああ、本当に。たまらない
ぐちゅぐちゅという粘ついた水音を聞きながらそっと瞼を閉じる。真っ暗になった視界のなかで、俺は吉澤を犯すことを考えた。
俺がそういう目で見てるなんて微塵も思っていないだろう隙だらけな吉澤を押し倒して、驚いている表情を見ながら煙草の味がするキスをして。
そのまま服を脱がせて、乳首でも弄ったらさすがに焦るだろうか。それともまだ、悪ふざけの延長とでも思って「冗談やめろよ」なんて笑って言ったりするのだろうか。
それでも手を止めないで、吉澤のを扱いてやって後ろを解そうとしたら、アイツはどんな反応をするだろう。そこまで考えたところで、ちょっと前に別れた吉澤の、アルコールのせいで真っ赤になった顔を思いだした。
(あんだけ酔ってたんだし、手間賃代わりにキスの一つでもしときゃよかったな)
ふと、そんな風にどうでもいい後悔を覚える。
「……うっ、吉澤……ッ」
うめき声を上げるのと同時に、ぶるりと体を震わせて俺は達した。てのひらで熱いしぶきを受ける。にちゃにちゃとねばつく感触に、ああやってしまった、と罪悪感を覚えた。
吉澤を好きになってから二年と少し。それまでに自慰をしたことは数あれど、吉澤をオカズに使ったことはなかった。何度もそうしそうになったけれど、その度に理性で吉澤の顔を脳内から追い払ってきたのだ。
健全な男子なら、好きな相手を思い浮かべて抜くなんて普通のことだろう。でも俺は、そうしてしまったらもう終わりだと思っていた。吉澤をオカズにして抜いてしまったら、きっと普通に吉澤と一緒にいるときも我慢できなくなる。そうしたら、今の「友人」というポジションすら失ってしまうかもしれない。そう考えていた。
つまるところ俺は、吉澤と一緒に居られなくなることが怖かったのだ。だから今まではなんとか堪え続けて、ほとんど義務のように定期的に処理するだけにしていた――の、だけれど。
(一線越えちまった、って感じかなぁ……)
週が明けた月曜、俺はどんな顔で吉澤と会えばいいのだろう。乱雑にティッシュを引き抜いて汚れた手を拭いながら、今日が土曜日であることに心の底から感謝した。
このままだと二戦目に突入してしまいそうなので、吉澤の匂いがするパーカーを部屋の隅へと投げ捨てる。丸めたティッシュも同じように放ったら、それはゴミ箱から外れて右に逸れたところへと落下した。拾うのも面倒になって、そのままでいいかと布団へ逆戻りする。
(なんで、吉澤のことなんか好きになっちゃったんだろうなぁ)
吉澤はガキくさいし、なにかとやかましい。
居酒屋でも必ず頼むくらいナスの漬物が好きだったり、にんにくの挟まった焼き鳥が好きだったりと好みが変に渋いところもある。それに、なんと言ってもヘビースモーカーだ。今からあれだけ吸っていたら、将来早死にするに決まってる。
どう考えても優良物件とは思えない。もちろん、失恋したことに対する愚痴を言っているときでも元恋人を直接けなしたりはしないところとか、良いところだってたくさんある。それでも男同士という壁を越えてまでずっと好きで居続けるほどなのかと問われると、すぐに頷ける自信は無かった。
なのにどうして俺は、吉澤のことがこうも好きで好きでしょうがないのだろう。
「……俺なら、絶対振ったりしねぇのに」
飽きた、なんていうひどい理由で男を振るようなナオミちゃんは良くて、どうして俺は駄目なのだろうなんて、理由なんてわかりきっているくせに考えてしまう。
(俺が男だから、だよなぁ)
どうして俺は男なんだろうかと、今更すぎることを考える。無論、女だったらそれはそれで困るし、そもそもそうだったら吉澤と出会えてすらいなかったのだろうけれど、今だけは「どうして」と思わずにはいられなかった。
そうこうしているうちに、瞼が重くなってくる。眠気には逆らえず目を閉じれば、吉澤の笑顔が瞼の裏に浮かんだ。
――吉澤、
フラれたと言って落ち込んでいた顔も、酔っぱらってへにゃへにゃになっていた顔も、いつものアホ面も。やっぱりどれもどうしようもなく好きだなぁなんて思った次の瞬間、俺は夢の世界に落ちていた。
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