さみしいおはなし(うー×めー)
2013/04/17



・さみしいおはなし
・なんかよく解らない感じです
・重陽とうーたんが付き合ってます













「…………さみしー、な」

 特にどうという理由もなく、ぼそりと呟く。
 深い意味はない。ただ、本当にただなんとなく、漠然としたさみしさのようなものが俺の心の内を掠めていった気がしたから、それをそのまま声に出してみた。それだけ。

 しいて言うならば、今日の天気が雨だからとか、部屋がちょっと肌寒いからとか、そういった環境的な要因のせいかもしれない。たぶん。よくわからないけれど、たぶん。
 ていうか、正直、そのあたりはどうでもよかった。さみしいな、なんて呟いたことすら。

 けれど、俺にとっては「それだけ」の「どうでもいい」出来事は、隣でマンガを読んでいた恋人にとっては聞き捨てならないものだったらしい。うーたんは、手にしていたマンガの向こうからひょっこり顔をのぞかせると、数秒考え込んだのちに苦虫を噛み潰したみたいな顔をした。

「なぁに、どしたのめーちゃん」
「や、どうもしねぇけど?」
「もしかして、俺がずっとマンガ読んでたからさみしかったの? ……てか、拗ねてる?」
「別に、拗ねてるわけじゃねーよ」

 うーたんは不安そうに問うてきたけど、そんなことを気にするほど俺は可愛げのあるやつじゃない。ゆるく首を振って、ただなんとなくさみしくなっただけだ、と説明してやる。
 しかしうーたんには、俺のその説明は納得のいくものじゃなかったらしい。

「ホントにそれだけ?」

 うーたんは読んでいたマンガを放ると、ぎゅっと両側から俺の頬を挟んできた。なにかを探るみたいに、目の奥をまっすぐに覗き込まれる。
 詰問する声がどこか有無を言わせぬ響きを持っていたことに、俺はたじろいだ。

「……ほんとだっつの」
「ホントのホントにホント? めーちゃん、なんか無理してたりしない?」
「してねぇから、無理なんて」

 うーたんのあまりの心配性っぷりに、うっかり声に出したりするんじゃなかったと内心で舌打ちするも、時すでに遅し。
 はあ、と溜息を吐く。
 けれど、そんな風に呆れながらもどこか嬉しく思う自分もいて。なんだか、複雑な気分であった。

「……あのさ、うーたん」
「なあに〜?」

 不思議な見つめ合いが十秒ほど続いたところで、俺は観念してこう言った。

「もういいから」
「なにが?」
「だから、その――」

 じっと、まっすぐな視線を向けてくるうーたんがちょっと眩しくって、俺は顔をそらした。わざとらしい咳払いを一つ。あー、えーと、だから、その。往生際悪い声を数回上げてから、囁くような声で紡ぐ。

「――もう、さみしーの無くなったから。」

 だから手を離してくれ。
 そう続けようとした言葉は、ニッコリ微笑んだうーたんの声に遮られた。

「ほんと?」
「……嘘ついてどーすんだよ」
「あはは、それもそっか。でも、なら良かったぁ〜」

 良かった? なにが、なんで『良かった』?
 訳が解らず問い返す俺に、うーたんはだってと答える。

「めーちゃんがさみしい気持ちでいると、俺までさみしくなってきちゃうからさぁ〜」

 冬の日の陽だまりみたいなポカポカ笑顔で口にされたそんな言葉に、俺の心の内の「さみしさ」の欠片のようなものが、その場しのぎのための嘘なんかじゃなくて、本当に消え失せていくのを。
 俺は、ぎゅっと抱き着いてきたうーたんの胸に顔を埋めながら、感じた。





 さみしいおはなし、おわり



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