一日遅れVD小話(うー×めぇー)
2013/02/15
・タイトル通りのお話inうーたんの部屋
・うーたんとめーちゃんが付き合っている設定です
・二木せんせーがなぜかアテ馬っぽいので注意!
・正直よくある展開過ぎてごめんなさい!!!!!
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「めーちゃん、めーちゃん」
「うん?」
携帯を操作する手はそのままに顔をあげると、さっきまでキッチンにいたはずのうーたんがそこに立っていた。はぁい、と湯気の立つマグカップを差し出される。
「ん、さんきゅ」
「どーいたしましてぇ」
小さく礼を言えば、にっこり笑ううーたん。自身もマグカップに口をつけて、自然な動作で俺の隣に腰掛け――腰掛け?
「……んで?」
「ん? なあに〜?」
いやいや、なあにじゃないだろう。
「なんで、俺の隣に座るわけ?」
これ、一人がけのソファなんですけど?
「えー」
「えーじゃない」
「めーちゃんやだ? 俺が隣に座んのぉ〜」
「やだ。超やだ」
だって狭いじゃん。
これが斎藤くんあたりならまだしも、平均そこそこの身長の俺と長身に分類されるうーたんとじゃ、暑苦しいにもほどがある。
さっさと出てけ、とグイグイ肘で押しやれば、途端に不満そうな顔をするうーたん。いやいや、なんだその顔は。
「そんなにヤダぁ〜?」
「まあ、そこそこ」
「なんでぇ?」
「いやだから、狭いじゃん。いくらこのソファにゆとりあるからって、二人は無茶だろ」
っていうか、うーたんが素直にどいてくれないせいでさっきからマグカップが危ないんですけど? ちょっと傾きかけて、中身がこぼれそうになってるんですけど?
不満タラタラにそういえば、うーたんは一瞬キョトンとしてぱちくりと瞬きをした。
「……えっ、それだけぇ?」
「それだけだけど」
むしろ、それ以外になんかあんのかよ。
「俺にベタベタされんのが嫌とかじゃなくてぇ?」
「は?」
なにを言っているんだこいつは。あまりにも予想外な言葉に、今度は俺がキョトンとする番だった。
「付き合ってんのに、今更嫌も何もないだろ」
っていうか、そもそもベタベタされて嫌だって思うくらいなら付き合ってなんかないっての。
俺って、そんなに愛情薄そうに見えるんだろうか。いくらネトゲのせいで二度も留年しそうになったバカとはいえども、好きでもないやつと、それも男と付き合うほどバカなつもりはねぇんだけど。
一息にそう言えば、さっきまでのやかましさがうそみたいに途端に黙りこくるうーたん。うつむいてしまったせいで、長いオレンジの前髪に阻まれその表情は見えない。
いったいどうしたのか。不審に思ったところで、ようやく名前を呼ばれた。
「……めーちゃん、」
「ンだよ」
ゆっくりと顔が持ち上げられて、少しずつその表情が露わになっていく――途中。
俺はその口元はゆるく弧を描いていることに気付いたところで、慌ててマグカップをローテーブルに避難させた。
「だいすきーっ!」
「おわあああああああ急に抱きつくなああああああッ!!!」
予感的中。間一髪難を逃れたマグカップをよそに、俺は突如がばりと覆いかぶさってきたうーたんによって、あっけなくソファの上に押し倒された。
というか、押しつぶされた。
「めーちゃん、めーちゃああああああん!!!」
「うーたん、うーた……ちょっ、おも、重い! 退けッ!!!!」
「あああ、めーちゃんごめんね! 今退くからぁ〜!」
殺す気か! とばしばし背中をたたきながら訴えれば、さっと上から退いてくれるうーたん。いやね、抱きついてくるのは全然いいんだけどね。
「状況を考えてからにしろっつーのッ!」
「ハイ、反省してまーす……」
ぜえぜえ言いながら、うーたんを床に正座させて吠える。
うなだれて弱々しくそう言っているあたり、うーたんがちゃんと反省しているのはわかるんだけど、これが結局なおらないのだからタチが悪い。それも、ものすごく。
実際、付き合いはじめてから何度もこんなやりとりをしたかわかったもんじゃない。
しかしなんだか、しょぼぼーんとしてるうーたんに犬耳としっぽが見えてきたのは気のせいだろうか。
「……うーたんさぁ、なんであんなこと言ったわけ?」
「あんなことぉ?」
「ベタベタされんのがうんたら〜、ってやつ」
俺的には、ちゃんとうーたんに好きって伝えてきたつもりなんだけど。それがきちんと伝わってなかったとしたら、ちょっとショックだ。
「だって、めーちゃんさぁ……」
「だって、なんだよ」
「――チョコ、あげてたじゃぁん」
「…………は?」
チョコ? そんなもの――ああ、そうだ。あげたわ、二木せんせーに。
なんか疲れてるみたいだったし、ポケットにたまたまチョコがあったから。だけど、
「それがどうかしたわけ?」
「どうかするよっ!」
「はあ?」
なんでうーたんはここまでチョコにこだわって……うん? チョコ?
まさか。と、とある可能性に思い当たってサッと血の気が引くのを感じた。
「…………うーたん、さあ」
「なぁにぃ」
ツンとした声がちょっと切ない。
「今日、何日だっけ?」
「十四日だけどぉ」
二月の、と付け足されたうーたんの声に、俺はようやくうーたんがすねている理由をさとった。あっちゃあ。
「うーたん、うーたん」
「……」
「ごめんなさい。今日がバレンタインだってこと、すっかり忘れてマシタ」
なので、えーと、……その。二木せんせーにチョコをあげたのは、「そういう」んじゃない、です。
――と、しどろもどろに説明しながら、今度は俺がソファの上で正座する番だった。
「……めーちゃん、ホントに忘れてたのぉ? バレンタイン」
「あー、うん。ほんっと、言い訳っぽくてアレなんだけどさ」
ぶっちゃけ小中と縁がなかったし、前の高校は通信制だったから言わずもがなだし。俺にとっては、バレンタインなんてネトゲでたまにイベントをやる日くらいの認識しかなかったのだ。
そのネトゲだって、最近はうーたんといる時間が多いからしていない。
だから、本当に、全然気が付かなかった。学園中が朝からなんだか浮き足だっていた理由にも、廊下が甘い匂いで充満していた原因にも、全然思い当らなかったのだ。
今考えてみると、我ながらなんてマヌケなんだと思う。
「えーと、だから、その」
ここは「ごめんなさい」でいいんだろうか? とか、そんなことを必死に考えていたら不意にうーたんの手が伸びてきて、そして。
「――いっ、ひゃいっ!」
ぐいっ、と頬の肉を思い切り引っ張られた。いたい。
「もーっ。めーちゃんらしいっちゃあらしいけどさ〜ぁ。まっさか、バレンタイン忘れてるなんて思わなかった〜」
「……はい、面目ないです」
「んーん。もういいよ〜」
へらっといつも通りの笑みを浮かべると、うーたんは今度はつねった頬を優しくなでてきた。
「俺こそ、つまんない嫉妬しちゃってごめんね〜ぇ。ホント、余裕なさすぎてかっこわるいや〜」
「……いや、べつに、」
俺は、うーたんはそういうところもふくめて、割と、ぜんぶすきなんだけど。――なんてことは、恥ずかしすぎてさすがに言えなかった。
「まあ、なにはともあれ」
最後にもう一回だけぎゅっと抱きしめてから離れたうーたんは、避難させてあった二つのマグカップを手にして、さっきと同じようにまた、俺に片方を手渡してきた。
そこで初めてマグカップの中身をのぞき、それがホットチョコレートな意味をようやく理解した俺は、笑顔で受け取って、うーたんのそれとかちんと合わせた。
「ハッピーバレンタイン、めーちゃん」
「ん。お返しはホワイトデーでいい?」
「どっちかっていうと、来年のバレインタインがいいかも〜ぉ」
「はは、了解」
ちゃっかり来年の約束までとりつけられてしまったことに気付いたのは、ちょっぴり冷めたココアを飲み干したあとのことだった。
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