怯



私はここを知っている というか、ここに住んでいた。
体が覚えている。この道、来たことがある。
アリアに手渡されたメモをもう一度見る。
住所の後ろには私がこれから居候するであろう、家の名前が書いてある。

…祖月家。
聞いたことのない名前だ。
いや、本当は聞いたことがあるのかもしれない。
忘れているだけで。
そしてここへ来れたことはどう考えてもアリアのお陰だ。

何故交通機関を使わなかったのか。
…何故一緒に来なかったのか?

それよりも何よりも、私は今人に会いたくない。
向こうに私のことを覚えている人が仮に居たとしても、
私は綺麗に思い出せる自信もないわけで。
…というか、私でなくとも、中学生の数年と
老人のそれとは全く違いすぎる。覚えているはずがない。
無意識なのだから。
絶対に話しかけられたくない。絶対に話しかけられたくない。
絶対に絶対にだ。
例えば向こうから来る同じ年くらいの男子にでもだ。
私は知らない。私は知らない。私は何も知らな

「なぁ、お前ってさ…式氏、だっけ?」



私は何も知らない。



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