優しさが胸に



零は家の玄関を開けると、靴を脱ぎ捨てて真っ先に奥の部屋へと走って行きました。
「こら、零ー!」
私が声かけをしても、零は靴を直そうとはしませんでした。
仕方なく、私が彼女の靴を綺麗に並べました。
私には零が急ぐ理由がわかっていたので、彼女を強く引き留めることが出来なかったのです。
零は奥の部屋で、必死になって彼女に話しかけていたのです。
いつものことでした。
零は外で自分の遊びを楽しみながらも、家ではこうして彼女のことも気にかけていたのです。
「えりかー、大丈夫ー?」
絵理香。
私が零と共に孤寺院から引き取った少女。
当時、彼女は喘息やアトピーなどの病気で中々外へ出られない生活を過ごしていました。
籍はあるものの、小学校ですら全く行くことが出来ていませんでした。
私は知っていました。どんなにこの世を繰り返しても、選択の余地が無いほどに彼女の居なくなる未来しかないということを。
それゆえに零の優しさが胸に痛むのです。
ですがそんな私とは対照的に絵理香はベッドの上で、笑っていました。
「今日は、ありがとう。すごく調子がいいの。」
その言葉に反応してか、零は嬉しそうにほんと?!と言ってとび跳ねました。
そして小さな身体で私の腰のあたりを何度か叩いて、夕飯を作ると言い出しました。
そしてその時の零には、絵理香の苦しそうな表情は見えていなかったのです。

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