記
…時計を見る。…短針は大体10時くらいを指していた。
…起きているだろうか。冷や汗が止まらない。
ケータイを取り出して、電話する。
コールが響く。モヤモヤする。
…さっきの話からすると、お姉さんというのは、十中八九アリアだ。
私も朧気に、彼女と同居していたことを記憶しているが、
それ以上に何か引っ掛かる。物凄く重要なことを忘れている。
もう一人、誰か…
彼女―アリアは4コールくらいで出た。
こちらに来てから初めての連絡。
「…もしもし。」
「ああ、零。」
彼女が何か、隠しているかもしれないのに。
迂闊にも彼女の声を聞いて、少し安心している自分がいた。
…尊敬する相手だから、慣れない土地に居るから?
「…アリア。…聞きたいことがあるの。言わなくてもわかると思うけど」
私の言葉に、アリアはケラケラと笑っていた。
…どうして、笑っているのか。
「解りますよ、じゃあ此方も聞くけれど貴女は何処まで覚えているの?」
電話口から聞こえたアリアの声が遠い。
どうやって話しているんだ。
単に彼女が遠くで話しているのか。
電波のせいか。
私の耳が、おかしくなったのか。
「…何処までと言われても、アリアがどれだけ知っているのか、わからない」
「…ああ、成る程。じゃあ貴女は本当に10%も覚えてないのですね?
それこそ身体が覚えてる程度であって
…じゃあ大河君のこともあやふやなのね」
「…大河…君…?」
…誰だそれは。
いや、本当は知ってる。
昔、ずっと「大河君」と私が呼んでいたのは。
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