「君がずっと笑っていてくれますように」



ターゲット発見。
その背中まで、距離約10メートル。
助走をつける分にはまぁ充分ある。
俺は気合いを入れると一気にその距離を縮める為に駆け出した。
ただし、あまりあからさまに走って、相手に近づいている事を悟られてはならない。
だって相手はあのリボーンだ。
俺が近づいていると知れば、奴はすぐに逃げてしまう。
逃げられたら、俺の負け。
逃げらずに捕まえたら、俺の勝ち。
いつからか朝の恒例行事となったこの勝負を、先に始めたのは俺だったのかリボーンだったのか…
たぶん、俺かな…
きっかけは、ちょっと忘れた。
でも、とにかくあの広くてデカい背中に飛び付かないと一日が始まったような気がしないくらいには、このやりとりは続いている。
登校する他の生徒たちの死角に隠れつつ、様子を見ながら徐々に接近する。
大丈夫、まだ気づかれてはいない。
そうして徐々に近くに見えてきたリボーンの背中。
その距離、あと2メートル。
よし、行ける!
確信した俺は、勢いのままに地を蹴りリボーンの背中に飛び付いた。
「ぐおっ!!」
「おはよう、リボーン!」
「って、おはようじゃねぇよ!毎回毎回止めろって言ってんだろうが!」
「むっ…。先輩に向かってその口振りはないんじゃない?」
ドカッと容赦なく全体重をかけて飛び付いた俺に、けれどもリボーンは前のめりになりながらもしっかりと俺を受け止めた。
ここで無様に倒れたりしないあたりはさすがだなぁと思うけど、正直後輩のくせに生意気だ。
だいたい、なんで年下のくせに俺より背が高いのか…
くっそ、俺だってな、父さんに似れば今頃はきっと大男に成長していたはずなんだ。
…いや、待てよ。
そうだ、俺の中に遺伝子は組み込まれてるんだ、諦めるのはまだ早いかもしれない。
そうだよ、今から伸びるかもしれないし?!
「いや、無理だろ?」
「なに?!」
どうやら後半から考え事を口に出していたようで、リボーンが呆れたように息を吐いてこちらを振り向いた。
ムカつくくらいのイケメンが、何やら残念そうな表情を浮かべている。
「…ツナが先輩だなんて未だ信じらんねぇぞ…」
「なにおぅ?!てか、先輩つけろって言ってるだろ?」
「はいはい、そのうちな」
そのうちって何だ…!?
聞こうとした俺に、けれどそれより先にリボーンの手が伸びてきて俺の頭をグリグリと撫でる。
「だいたい、身長も体型も俺の方がデカイじゃねぇか。他の奴から見れば、確実に俺の方が年上に見えるぞ?」
「うぐっ!」
確かに、その言葉は否定できない。
体格だけでなく、見た目の雰囲気もリボーンは大人っぽい。
対して俺は、高校生になった今も中学生、下手をすれば小学生に間違われる始末だ。
けど、それでも俺がリボーンよりも年上で有ることは間違いの無い事実で。
だから、このクソ生意気な後輩に俺が先輩である威厳を見せつけねばならないのだ。
「あのなぁ、そんな生意気な事を言う奴は放課後の部活を楽しみにしてろよ?ビシバシしごいてやるからな!!」
グイッとしがみついていた首に腕を絡ませて締め付けてやる。
でも、リボーンには全く効いていないようで腹が立つ。
「ちっ」
「って、舌打ちするな、一年坊主!」
「わかった、わかった」
「なんか態度が偉そうだぞ?」
「んなことねぇぞ…って、ヤベェ予鈴鳴ってる!」
「え!?」
言われた言葉に耳を澄ませば、風に乗ってチャイムの音が俺の耳にも届いた。
「ヤバい!これで放課後居残りにでもなったら顧問に小言言われちゃう!!」
「だから、誰のせいだ!」
「え?リボーンのせいじゃないの?」
「責任転嫁すんじゃねぇぞ!」
怒りながらも、リボーンは背中にしがみついていた俺をしっかりと背負い直してそのままダッシュを開始した。
「うおっ!」
グワッと加速した体に驚いて、けれども振り落とされないよう俺もリボーンの体に回した腕に力を込める。
どうしてだろう。
そうしているうちに、自然と笑みが溢れてきた。
「わぁ!閉まる閉まる!急いでリボーン!!」
「うるせぇ!わかってる!黙ってしがみついてろ!!」
叫んだリボーンのその顔にも、俺と同じような笑みが浮かんでいて。
ああ、どうしてなのかな。
リボーンと居るとこんなに楽しい。
リボーンと居ると、こんなにワクワクする。
だから、毎朝こうして驚かしたり、軽口を叩きあったりする。
どうしてかな。
君が居ない学生生活なんて、今はもう考えられなくて。
「よっしゃセーフ!!」
「さすがリボーン!!」
両手を挙げて喜びあって、また放課後に会おうと約束をして。
俺は一年分君より産まれてくるのが早くて。
だから一年先に卒業をしてしまうけれど。
でも、それまでの日々を二人で一緒に過ごしたいと思ってる。
君も、同じように思ってくれているといいな。
同じように。今、この時を楽しんでいてくれたら…
「ツナ!!」
「だから先輩ってつけろってば!」
「明日の朝は俺が勝つからな!」
「……」
ああ、うん。
そうだね。明日もまた、一緒に居よう。
このなんでもない日々を、楽しもう。
「明日もまた俺が勝つよ!!」
「言ってろ!負けっぱなしは性に合わねぇんだよ!」
君が笑う。
楽しそうに笑う。
その笑顔を見て、俺が笑う。
ああ、どうか。叶うなら。
いつまでもいつまでも、この笑顔が消えませんように。
少しでも長く、続きますように。

君がいつまでも、笑っていてくれますように。

(終)

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