「良い夫婦の日は家族の日」




夫婦。
夫と妻。めおと。適法の婚姻をした男女の身分。
「…どれもあてはまんない気がするんだけど…」
辞書を片手にしながら、綱吉はふうと息を吐いた。
11月22日。
語呂合わせで今日は俗に良い夫婦の日なんて言われている。
朝からリボーンがそんな話題を出しては、こちらに何か猛烈なアピールをしてきているのだが、とりあえず綱吉はそのすべてを無視していた。
話に乗ったら最後。リボーンが言い出すことなんて目に見えている。
曰く、夫婦の日なんだから愛を語り合おう。もちろんベッドの中で…
「夫婦の日じゃなくても隙あらば人をベッドに連れ込もうとするくせに…」
執務机にゴツンと額を落として綱吉はもう一度大きく息を吐いた。
何が夫婦の日だ。
胸の内で毒づいた。
仕方がない。どんなに好き合っていたって、こうして辞書に書いてあるように自分たちは決して結ばれることは無いんだ。
そう思うと、苦しくなる。
(なんで同じ性別の男を好きになっちゃったのかな…)
気が付いたら、好きになっていた。
それはどうしようもなく、認めなければならない程に。
でも、だからと言って同性では、どんなに頑張ったって夫婦になることはできない。
どんなに体を重ねたって、子供ができる事もない。
それどころか、この大きな組織を引っ張って行くからには、いつかは自分たちの関係を終わらせなければならない時がくるかもしれない。
そんな、いつ崩れるかもわからない二人の関係。
(別れるのは…嫌だな)
気持ちが滅入る。ここ最近、こんなに落ち込んだことは無かった。
改めて考えると、自分たちの関係は実に非生産的だ。
世間では認めてもらえない関係。
でも。それでも止められなかった。
どんなに間違っていると言われても、リボーンの事が好きだった。
それは変えられない。変わらない。
多分、これ以上に誰かを愛する事なんかできないくらい、愛している。
きっと何かの事情で別れたとしても、心はリボーンに向いたままなんだろうと思う。
もう、魂の半身と言っても過言じゃないくらい依存しているし、同時に独占欲もある。
(こんなに好きなのに…)
それでも、法的には結ばれない関係。
そうだ。どんなに好きでも、結婚はできないのだ。
夫婦には、なれない…
夫と妻の関係には、なれない。
「ちぇっ。何が良い夫婦の日だよ…」
ボソリと呟いた。
できるものならなりたいさ。良い夫婦ってやつに。
なれたらどんなに幸せだろう。
どんな夫婦に、なれるんだろう…
「夫婦って、なにするのかな…」
同じ家に一緒に暮らして一緒にご飯を食べて。
それから、一緒に風呂に入って、一緒に同じ布団で寝て…
「…ん?」
そこまで考えて、ふと思った。
(あれ?なんだかそれって、今の状況と何も変わらなくないか…?)
ハタと気付いて頭を持ち上げる。
そうして、もう一度考えてみた。
夫婦の定義と、今の自分たちの関係について。
ひとつ屋根の下では…すでに暮らしている。
まぁ、ファミリーと言う大きな組織の家ではあるが、ここに居るのは文字通り誰もが家族だ。
だから一緒にご飯も食べている。
お風呂だって一緒に入る事は多い。
そしてあわよくばそのまま一緒に寝る。
(待てよ、これって…)
そこで綱吉は気が付いた。
これってもしかして、もう自分たちは夫婦って言う枠を超え、既に家族ってやつになってるんじゃないのか?
(まぁ、一般の家庭とはちょっと違う気もするけど…)
それでも、家族である事に間違いはない。
一家の大黒柱である自分。
その自分にもっとも近い位置で支えてくれるリボーンはつまり妻の位置にあたるんだろうか。
そしてたくさんの仲間たちは、つまり大事な子供たち。
(…なんだよ、俺たちってばもう夫婦じゃん…)
そう気が付いた途端、なんだかそれまでもやもやとしていた気持ちが一瞬で吹き飛んだ気がした。
「なんだ…。すごく簡単なことじゃん…」
大事な大事な、家族たち。
大事な大事な、愛する人たち。
そうだ。紙の上での法律なんてなくても、家族は作れる。
自分たちが認め合えれば、夫婦になれる。
「ははっ。俺ってば馬鹿だなぁ…」
分かった途端に、なんだか笑えた。
答えは、こんなに簡単な事。
ああ、そうか。辞書に載っていることばかりが、正解では無い。
「よし!」
綱吉は何かを決意したように椅子から立ち上がると部屋から飛び出した。
「リボーン!」
それから、散々綱吉に無視されて若干面白くない顔になっているリボーンの元へと駆けて行く。
「なぁ!今日はみんなで一緒にご飯を食べよう!」
「は?!」
「それで、今日は二人で一緒に手を繋いで寝よう!」
「はぁ!?」
突然の綱吉の提案に、意味が分からないと言ったようにリボーンが間抜けな顔になる。
「だって今日は、良い夫婦の日なんだろ!」
だから、家族を愛そう。
それから、自分の大事な人と愛を確かめ合おう。
にこやかな綱吉の表情に、リボーンも何かを察したのだろう。
「バカツナ。ただ手を繋いで一緒に寝るだけでいいのか?」
ニヤリと笑って、そう茶化された。
「ううーん…。我慢できなくなったら、してもいいよ」
「おい、偉そうだぞ」
「だって俺が家族の大黒柱だからね」
そのまま両手を広げて待っているその胸の中に綱吉は勢いよくダイブする。
受け止める力強さに、安心を覚える。
ああ、これが家族。これが、俺の大好きな人。
「リボーン大好き!」
「ああ、俺だって愛してる」
臆面もなく告げる言葉に、周りはやれやれと少し呆れた顔で、それでも優しく見守ってくれる。
ほら。こんな幸せが、他にあるだろうか。
なんて素敵な、俺の家族。

11月22日。
語呂合わせで夫婦の日。
それは同時に、家族の日。
だから。
世界一の家族を、大切にするんだ。

俺の大事な、ボンゴレファミリー。

(終)

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