「うう…」
いったいどこから用意してきたのか…
綱吉は裾のやや短いAラインのワンピース姿に着替えさせられていた。
この着替えの間にも、リボーンの手によって服を脱がされ、パンツも脱がされてと一連のセクハラがあったのは言うまでもない。
因みに、パンツはなんとか返して貰っている。
ノーパンでスカートは、さすがに辛い。
「よーし、よし。予想通りだ」
そんなワンピース姿の綱吉に、リボーンはなぜかご機嫌顔だ。
何がそんな楽しいのか、股下を不自然に通っていく風に違和感を拭いきれずモジモジと足を組みながら綱吉はうなだれた。
(俺、リボーンの趣味にはついていけない…)
昔からリボーンのツボと言うものがどうにも理解できない。
今回だってそうだ。
成人男子にワンピースを着せて、なぜ喜べる…?
普通だったらドン引きのシーンだ。
「よしよし。そんじゃさらに魔女らしくしていくぞ」
「いや、いいよ、もうこれで…」
ただでさえ自分がおかしな姿になっているだろうことは自覚している。
そこへさらに手を加えた所で、まともな姿にはきっとならないだろう。
だがリボーンは譲らなかった。
「バカツナ、これからがいいところだろうが」
分かってないなと肩を竦め、やれやれと言ったジェスチャーをする。
「ワンピースだけでもそれなりにいいが、やはり魔女と言えばこれは外せねぇだろ」
それなりにいいって、何がいいんだろう…
もはやいちいち突っ込むのも面倒になり口には出さないがしっかり疑問は感じた。
そしてまたどこからともなくリボーンが取り出した物を見て、さらに困惑顔になる。
「なにそれ」
取り出されたのは、黒とオレンジのボーダー柄をした何やらとても長い布。
一瞬マフラーかとも思ったのだが、マフラーとはどうも素材が違うようだ。
「見てわからねぇのか、オーバーニーソックスだ」
「知るかよ」
即座に答えた。
「嘆かわしいなおい、これくらい知ってろよ」
リボーンが額に手を置き残念そうに息をつくが、しかし普段自分たちでは決して履かない物を知っている方もどうなんだと思う。
「俺はツナに似合いそうな物は常にチェックを怠らねぇぞ」
「お前の中で俺はいったいどんな着せ替えをさせられてるんだ?」
少なくともニーソックスが似合うと思いこまれていることは確からしい。
「絶対領域を作り出すには必須アイテムだろうが」
「俺はリボーンの事が本気で心配になってきたよ…」
お互いに通じ合わない視線をぶつけながら見つめ合う。
「とにかくだ、このニーソを履け」
「ええー?」
「いいから、履け!」
グイと顔面に押し付けられ、綱吉はしぶしぶと渡されたソックスを履いてみた。
「ちょっと長すぎじゃないか、これ…」
太もものあたりまであるソックスに、これはどうなんだと疑問を持ちながら履き終わると、今度は靴を渡される。
爪先がやたらと尖っているヒールだ。しかも細い。
そんなもの、綱吉の足に入るはずがない。
「幅が入らないと思うけど…」
「大丈夫だ、特注でツナの足のサイズに合わせた」
「マジか」
「マジだ」
いいから履けと急かされ、綱吉は疑いながらもそっとヒールを履いてみた。以外にも幅はぴったりだった…
どうやら見た目に細くは見えても、綱吉の足幅サイズに合わせて作ったのは本当らしい。
なんとも無駄な贅沢品だ…
「で、最後はこれだな」
そうして最後にと渡されたのは、定番である魔女のとんがり帽子。
これで魔女のコスプレは完成である。
「おお!予想を遥かに超える!」
完成した所でリボーンは数歩後ろに下がるとうんうんと頷きながら満足そうに綱吉の全身を眺めた。
「なぁ、ほんとに似合ってると思ってるのか?」
そんなリボーンの反応にも、綱吉は不安気だ。
するとリボーンはそんな綱吉の不安を断ち切るように深く頷く。
「モロチ…もちろんだぞ」
何かをうっかり言いかけた。
「今、何を言いかけた?」
つい、突っ込んだ。
「モロチン」
「いや、答えるなよ!そこは濁せよ!」
うっかり恥ずかしくなってスカートの股間を抑える。
「お、その仕草もまたそそられるな」
リボーンがにやりと笑った。この万年スケベ親父め…
ギロリと鋭い視線で綱吉はリボーンを見るが、正直に言えばそんな姿もまた可愛らしい。
本人は全く似合っていないと思っているらしいが、リボーンに言わせればそのコスプレは怖いくらい綱吉に似合っている。
まさに綱吉のために用意したかいがあったと言える出来だ。
短めのスカートの裾から覗く細い足に映えるニーソックス。
とんがり帽子にとんがり靴。
怒っているだけでなく、恥ずかしさもあってうっすらと朱に染まった頬は、成人しても幼い綱吉の顔にどこか色っぽさを加えていた。
さらには下半身が気になるのだろう。ソワソワした足がいつの間にか内股になっている。
(やべぇな…)
そんな姿の綱吉に、これからやらせようと思っている事を想像すると、それだけでリボーンの中心が熱く興奮しそうだった。
いや、実際にはもう固くなりかけているのだが…
「で?この姿のままいくの?」
あんなプレイやこんなプレイの妄想を始めたリボーンに、綱吉が声をかけた。
そう言えば、外出するために着替えさせたのだと思い出す。
綱吉がもう一度このまま外出するつもりなのかとリボーンに聞くと、リボーンは当然だと頷きかけて…止めた。
勿体ない…
不意にそんな感情が芽生え始めていた。
この綱吉を、外に連れ出してたくさんの目に触れさせるのは、なんだか惜しい。
いや、出来るなら誰にも見せたくはない。
リボーン一人がひっそりと楽しみたい…
そんな独占欲がムクムクと湧き上がってくる。
「なぁ、今日は施設に行くのやめねぇか?」
「はぁ?何言ってんだよ、嫌だよ、行くよ」
木は森の中作戦だと言ってこんな姿に着替えさせたのは誰だ。
有無も言わせず着替えさせておいて、いざ着替えたら行くのはやめろだなんて、あまりに勝手すぎる。
そんな勝手なリボーンに、綱吉は深く息をついた。
「ほら、やっぱり変なんじゃん。だったらリボーンもスーツに着替えて、普通に行こうよ」
渋るリボーンに、どうやら綱吉が似合わないからダメなのだと勘違いを始めた。
このままがダメなのなら、普通にリボーンを護衛につけて出かけようと言いだす綱吉に、リボーンはこれまた大きな舌打ちをする。
「別に似合ってねぇなんて言ってねぇだろ。それにまだ、箒に跨ってアンアンも言わせてねぇぞ。外出はその後だ」
「って、待て、アンアンってなんだ」
不安な単語が聞こえて聞き返す。
そう言えばお題は箒に跨った自分を見て興奮するとの事だったが、それがさらにアンアンと言う単語にどうして繋がるのだと聞こうとして…やめた。
綱吉の中で、ようやく言葉がイコールで繋がったからだ。
つまりはこの姿で箒に跨り、だが、ただ跨るのではなく何かしらのセクハラを仕掛けるつもりだったのだろう。それが興奮する事につながるのだとすれば、リボーンはいったい箒を使ってどんなプレイをするつもりだったのか…
「どうもこうも、ポールダンスよろしく箒を跨いで腰振ってアンアン言わせる気だったが?」
「言うなよ!ご想像にお任せしますでとどめろよ!」
「ばっかやろう!皆様は箒と戯れうっかり棒に自身をこすりつけて感じちゃったツナが我慢できずに箒を使ってずりせん始めて、そんなお前を俺がまさに視姦のごとく見つめるもんだから体が熱くなっちゃったお前は箒を俺に見立ててねっとりキスなんかして、我慢できない、リボーン…して?とかおねだりしちゃうシーンを所望しているに決まってるじゃねぇか!」
「だから全部言うなって!想像逞しいなおい、口にしたらダメだろこの変態!そういう事は想像してても口に出すな!」
「正直に言って何が悪い!」
「悪いわ!正直にも程がある!」
リボーンの妄想を聞いてカアアアと耳まで赤くした綱吉が怒鳴る。
しかしリボーンは容赦なく綱吉に箒を差し出してきた。
「ほら、戯れろよ」
「嫌だよ!」
「嫌よ嫌よも隙のうちって言うじゃねぇか。ホントはやりたいんだろ?」
「んなわけあるか!」
ズイズイと箒を突きつけられ、壁際に追い込まれた。
ああ、嫌だ。
何が嫌って、このまま箒を無理やり持たされたら自分はきっとリボーンの想像通りの事をしてしまいそうで怖いのだ…
あまりにもリボーンの想像がリアルすぎて、綱吉のソコも少しではあるが熱を持ち始めている。
あの箒に擦り寄って…
(わああ!ダメだダメだ、想像するな!)
なんとか言い聞かせはするけれど、固い棒に自分のそれを押し付けるその感触はどんなものなんだろうとか、もともと快楽事には弱い綱吉はついそんな事を考えてしまう。
「さぁ、ツナ。やろうぜ?」
「うう…」
「気持ちいいぞ?きっと」
「ううう…」
綱吉の手が、そっと箒に伸ばされた。



「ふぅ。どうやらリボーンさんのおかげで10代目の無茶な外出はなくなりそうだな」
部屋の中の攻防をこっそりドア越しに聞きながら、獄寺はほっと息をつく。
自分たちが準備をしている間に綱吉が出ていく可能性は充分にあった為、先にリボーンにも話を通しておいたのだ。
「んじゃ、施設には俺が行ってくるぜ」
「ああ、頼む山本。だがくれぐれも10代目の顔に泥を塗るような視察はしてくるんじゃねぇぞ」
「わかってるって」
軽い調子で笑うのは、綱吉のもうひとりの右腕である山本だ。
綱吉を心配して、こちらもドアの外で待機していた。
どうやらその心配は杞憂に終わりそうだ。
「最近のツナの無茶ぶりは、ちょっと気になってたしな」
「ああ…。10代目は、いったい何をおひとりで抱えていらっしゃるのか…」
「…何でもねぇって言われるのが、一番つれぇよ」
二人の表情が、しばし厳しくなる。
だが直ぐに影を消し、頭を振って不安を拭い去った。
「大丈夫だ。俺たちはしっかり10代目についていけばいい」
「ああ、そうだな」
頷きあって、別れる。
その道が、どこまでも輝く未来へと続く道であると信じて。























「ああ、ほら。少しでも気を抜けばこうなると思っていたよ」
向けられる銃口。
痛めつけられて動かない体。
けれど、希望は失わない。
この日のために、やるべきことはやってきた。
「ごめんね皆、後は任せた…」
でも、信じているから。
きっと自分に何があっても、来てくれるって信じて…いるから。
「バイバイ、綱吉クン」
無邪気な微笑みを浮かべる、白の王。
今更どうしてとは聞かない。だがシナリオはいったいどこから狂ったのか…
『お菓子くれなきゃ悪戯するぞvv』
ふと、あの日のリボーンの言葉を思い出した。
ああ、そうか。あの日にお菓子をあげなかったからかな…
なんて、実際はそんな事は無いのだろうけど…
でも、だったら…
「Trick or treat?」
今更だけど伸ばした指に、けれど持っていた飴は、無情にも粉々に砕け散った。


それでも俺は、信じている…
仲間を、友を、そして君を。
そう、この手がきっと、君にも届くと…


甘いお菓子は、悪戯止める必須アイテムだから。
あげないから、悪戯をしたんだろう?
だから君にもひとつあげる。
甘い甘い、溶けるくらい甘い、お砂糖たっぷりの、甘いお菓子を…


(終)



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