「ロマンはロマンスに、そして最後はエロティシズムに」



「ねぇリボーン、ブルームーンって何?」
せかせかと今日も書類に判子を押しながら綱吉がふと思い付いたようにリボーンに聞いた。
「あ?」
唐突にぶつけられた問いにリボーンはうっかりそれを聞き逃してしまい、仕方なく手入れをしていた銃から視線を外し、綱吉を見る。
「だから、ブルームーンって、なに?」
そんなリボーンに綱吉は聞いてなかったのかよと少し拗ねたように頬を膨らましながら、もう一度尋ねた。
「なんだいきなり?」
だが明らかに仕事とは関係の無い話題に、リボーンも眉を寄せる。
どうして唐突にそんな単語が出てきたのかと逆に尋ねれば、綱吉は嬉々として判子を放り投げリボーンの側へと寄ってきた。
明らかに仕事をサボるための口実だと気づいたが、あえて注意はせず好きにさせる。
どうせ言ったところで変わりはしない。後から自分の首を締めるのは綱吉自身だ。
それに銃の手入ればかりしているのにもそろそろ飽きてきた所だ。
気分転換に少しくらいは付き合ってやってもいいだろうと、リボーンは自分の隣に綱吉を座らせた。
「この間メイドの子達が話してるのを聞いたんだ。なんか、縁起物みたいなもんなんだろう?」
ブルームーン=縁起物。
いったいどうしたらそんな方程式が完成するのだと綱吉を黙って見つめれば、
「見たら幸せになるとか何とか言ってたからさぁ」
それを聞いて納得した。
なるほど、日本人らしい解釈だ。
とは言え、そんなものは迷信だとリボーンは思っている。
「珍しい月だとか言ってメディアが騒いでるだけだろ」
冷めた口調でそう言えば、しかし綱吉は珍しいと言う言葉に食いついてきた。
「なに?なに?そんな珍しいものなの?」
ワクワクとした笑顔に、リボーンの方が困惑する。
「珍しいっつっても超常現象じゃねぇぞ?実際に月が青くなるわけじゃねぇ」
「え?違うの?」
途端に綱吉のテンションが一気に下がった。
わかりやすいリアクションにしょうがねぇ奴だなとリボーンも息をつく。
「だいたい、ブルームーンってやつは定義がはっきりしたもんじゃねぇ。一説では農暦の二分二至で区切られた四つの季節の中で期間中に3回あるはずの満月が何年か一度に月の満ち欠けの計算上4回になる時があって、その3つ目をブルームーンだと言う連中もいれば、ひと月に1回としている説の満月がやっぱり何年かに一度、計算上月初に満月がきちまって月末にも満月になる現象が起きた時、その2つ目こそブルームーンだと言う奴等もいる。けっきょく、年間の日数と月の満ち欠けの間隔によってどうしたって計算がずれて起こる現象を辻褄合わせに最もらしくそう呼んでるとしか俺には感じないんだがな」
ズラズラと説明書みたいに持論を含んだ解説をするリボーンに、綱吉の方は途中からもう何を言っているのか分からず、さっさと理解する事を諦めた。
そんな顔をしている綱吉に、リボーンはほらみろとばかりに呆れた顔をする。
「ようするに、閏年みたいに何年かに一度巡ってくる現象だと思っとけ」
「ああ、それならなんとなく…」
わかるようなわからないような…
ますますわからなくなったような…
だがとりあえず、自分が期待していたような答えでは無かった事だけは理解できた。
「なんだぁ、じゃあ月が青くなるわけじゃないんだ…」
残念だと息をつく。
実際に青い月があるなら、リボーンと見てみたいと思っていたからだ。
幸せになれると言うなら、なおさらだった。
「バカだな。太陽光を浴びて青くなるはずねぇだろ。だいたい月は自分で光ってる訳じゃねぇ」
「わかってるよ、それくらい」
でもブルームーンと言うくらいだから、何かしら青くなる現象があるんだと思ったのだとボヤく綱吉にリボーンは鼻で笑いながら、しかし不意に、
「ああ、だがそう言や、月が青く見える時もあるみてぇだったぞ」
「へ?」
何かを思い出したようにそう言った。
今しがた否定した側から突然あったと意見を変えたリボーンに、綱吉はますます混乱する。
いったいどっちなんだ?
「火山の噴火や隕石なんかの落下でおこるガスや塵なんかが影響して…」
「ごめん、その話また長くなりそう?」
そう言えば…とまたうんちくじみた講釈を語りだしたリボーンの長台詞を綱吉が途中でぶった切った。
たぶんきっと、いや絶対に、説明された所で綱吉には理解できないし、やっぱり期待してた展開には発展しそうにない。
「なんだ、お前がブルームーンの事を教えろって言ったんじゃねぇか」
「そうなんだけど、そんな本格的な説明が知りたかった訳じゃないよ」
どちらかと言えば、知りたかったのはブルームーンを見るとどんな幸せが待っているのかとか、そんなちょっとしたロマンの方だ。
「リボーンって、存在がファンタジーなのに、変な所でリアリストだよね」
「誰がファンタジーだ」
「だって呪いにかけられて何年も赤ん坊の姿のままだったなんて、ファンタジー以外の何でもないじゃん」
それを言うなら死ぬ気の炎を扱う自分も相当なファンタジーだけれども。
けれど、それにしてもリボーンの場合は言っている事がいちいち科学的でちっともロマンが感じられない。
「ふん。月にロマンも何もあるもんか」
「でもロマンチックじゃん。月の明かりに照らされながらさぁ、こう綺麗だね…君の瞳のようだ…とかさ」
「どこの三流作家だ」
「なんだよ、いいじゃんちょっとくらい夢見ても!」
あくまでもそっけない態度を崩さないリボーンに、綱吉もだんだん意地になってくる。
こうなったら絶対にロマンチックな方向に話を持っていくんだ!
月を見ながら二人で朝まで寄り添って…寄り添って…
「うわ、ちょっ、たんま!」
寄り添って、何をする気だ?
思考がうっかり違う方向にいきかけて、綱吉は慌てて頭を振った。
そんな綱吉の変化を、リボーンはもちろん見逃さない。
さっきまでの素っ気なさがまるで嘘みたいに綱吉の変化に食らいついてきた。
「なんだ、そういう誘いだったら早く言え。すぐにでも乗ってやるぞ」
ニヤニヤと笑うリボーンに、綱吉の顔が一瞬で赤くなる。
「ちがっ…!そう言う意味じゃ…!」
「照れるなよ、一緒に月が沈むまでロマンスを語り合おうじゃねぇか、体でな」
ロマンからいつの間にかロマンスにすり替えられている。
そう言えば自分も途中からロマンではなくロマンチックとか言いだしていたような…
だがしかし、ここで流されたら綱吉の思い描いていた方向には行かない事は確かだ。
ロマンスを飛び越えエロい方向に話が向かうことは目に見えている。
ここは何としても阻止しなければ!!
「だから、違うってば!」
何とか事態を回避しようと必死に否定するも、リボーンは当然聞いてはくれない。
「なんなら月が沈むまでと言わず、夜明けのコーヒーまで付き合ってやるぞ?」
ニヤニヤと笑うリボーンは素早く綱吉の腰を掴んで引き寄せる。
ああ、ダメだ。
このままでは確実に流されてしまう…
でもそう思う傍らで、どこかで流されちゃえよと誘う自分もいたりして。
だってけっきょくそうだろう?
ブルームーンの話なんて、ホントはリボーンに近づくための口実でしかない。
本当はさっきからずっと、リボーンに触れたくて、くっつきたくてたまらなかったのだから。
(だから…さ…)
いっそこのまま流されて、今日は二人で過ごしちゃおうか?
そう誘えばリボーンは、もうそのつもりだと鮮やかに微笑んだ。
その顔がとても好きだと思う。
だってそれは綱吉だけが見れる、何よりも特別な笑顔だ。
近づく体温に、胸が踊る。
期待通りに重なった唇は、期待以上の甘さをくれる。
その甘さにかぶりついたら最後。
止める事なんて、もう誰にもできはしない。
さぁ、ほら。
ロマンよりもロマンスを。
そしてロマンスの先には、エロティシズムを。
それはまさしく正しい恋の姿なんだって、言っても過言じゃないだろう?
だって恋は下心。
君といつだって、いつまでだって、全身でくっついていたいんだ。



(終)
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