「手作りチョコの甘い罠」


大好きな君の為に、心を込めて贈るよ。
ありったけの気持ちを込めて。

この思いがどうか、伝わりますように…



「ふん。我ながら上出来だな」
普段はめったに自分では立たない自宅キッチンで、リボーンは出来あがった手作りのチョコレートをひとつ摘んで食べてみた。
自分には少し甘すぎるそれは、けれど綱吉にならちょうどいい甘さだろう。
2月14日。
バレンタインデー。
今年は平日で大学は休みではないが自主休講にした。
行ったところで騒がしい事態に巻き込まれることは、長年の経験で目に見えている。
ならば自宅で有意義にやりたいことを優先した方がいいだろう。
綱吉の方は今日はどうにも落とせない授業があるとかで大学に行っていたが、帰りにここへ寄るように伝えていた。
時計を見れば、そろそろ終わって帰ってくる頃である。
「さて、今年はどうなるかな」
何かを思い出すようにリボーンが笑う。
それと同時に、玄関のドアがガチャリと開いた。


「ああ、もう!俺も休めばよかったよー…」
部屋に入ってくるなりの一声に、どうやらリボーンが大学に行かなかったせいで綱吉が女子連中に捕まり酷い目にあったらしいと知れた。
何人かがリボーンに渡してくれるよう綱吉にチョコレートの橋渡しを頼んできのだが、それを受け取って持って帰るとリボーンの機嫌がそれはもう地の底まで悪くなる。
実際、何度か断りきれずに持って帰ったこともあったが、そのたびに人には言えない思い出を記憶に刻みつけられて、さすがにもう懲りた綱吉だ。
リボーンの部屋に入る前に、隅から隅まで思わずチョコレートが紛れて入っていないかをチェックしたほど、二度とごめんだと懲りている。
「来年はお前も一緒に休めよ」
「うん、そうする…」
よほど今年の女子パワーに疲れ果てたのか、リボーンの提案に綱吉はあっさり頷くと、肩にカバンを下げたままリビングのソファーにダイブした。
「あれ?チョコの匂いがする」
そこでようやく綱吉は部屋中に充満していたその香りに気が付いた。
「ああ。俺様特製チョコレートだ。今年も用意してやったぞ」
ニヤニヤと意味ありげに笑いながら皿に綺麗に並べられたチョコレートを目の前に出され、綱吉の頬が引きつった。
実は去年、同じ様に手作りチョコレートを手渡され、食べた瞬間に口中に広がったアルコールのおかげで前後が分からなくなり、気が付いたら足腰が立たない状態で次の日の朝を迎えていたのだ。
それを思い出して警戒心丸出しのままチョコレートを見つめれば、
「安心しろ。今年はブランデーやウィスキーは入れてねぇぞ」
そう言ってリボーンはひょいとひとつチョコレートを摘み上げ、半分に割るように自分で噛んで綱吉に中を見せてやった。
「あ、中までチョコレートだ」
どうやら今年のチョコレートは酒入りではないらしいと安心する。
どうにもあの酒好きの父の遺伝子は受け継がなかったらしく、ほんの少し摂取しただけでも酔っ払うのだ。
下手をすれば粕漬けの漬け物ですら酔う時があるため、外食にはそうとう気を使っていた。
「今年は生チョコレートにしてみたんだぞ。柔らかいから食って見ろよ」
「ふぅん、じゃあひとつちょうだい」
「ああ」
中にアルコールの液体が入ってないことを確認した綱吉は、安心したようにリボーンにチョコレートを請うと、リボーンはなぜか手に持っていたもう半分のチョコレートをまた咥えて綱吉の傍にやってきた。
「ちょっ、自分で食べれるよ」
そのままリボーンの顔が綱吉の目の前に迫ってくる。
どうやらその状態で食べさせる気らしいと気づいて慌てて止めようとするが、リボーンは聞かない。
いいから食えとばかりに唇に押し付けられ、仕方なく綱吉はリボーンの唇ごとチョコレートを受け取った。
が、やっぱりそれはヤバかった。
「んん?!」
口に含んだ瞬間に広がるオレンジリキュールの香り。
独特のアルコール臭と、フルーツの酸味がココアパウダーの苦味とチョコレートの甘味に混ざり合い、全てが一緒になって口内の熱で溶けていった。
生チョコレートの柔らない食感を味わう所ではない。
やばい!まずい!と思っているそのうちに、二つ目のチョコレートが口の中に放り込まれた。
これ以上はダメだと舌で押し返そうとするが、それより先にリボーンの舌が中に入ってきて、口の中でチョコレートを溶かしてしまう。
「あ…う…」
体を徐々に駆け巡っていくアルコール。
血の気があがり、体が火照ってきた。
頭が次第にぼんやりとしはじめた所で3つ目のチョコレート。
もう抵抗する力もなく、綱吉はそれをおとなしく嚥下した。
「う、うそつきぃ…」
呂律の回らなくなりはじめた口調でリボーンに訴えてみるが、効果はない。
火照って赤くなった顔と、熱さによって潤み始めた目。さらにチョコレートでテロテロと汚れた唇とくれば、睨みつけた所で誘っているようにしか見えない。
「おしゃけ、はい…て、ない…て」
確かにそう言ったはずだ。
だから安心して食べたと言うのに酷い裏切りである。
しかしリボーンはと言えば、
「そんなことは一言も言ってねぇぞ?」
ケロリとそう答えた。
「ふえ?」
そんなバカなと思いつつ、よく回らない頭でリボーンの言った言葉を思い出す。
そして気づいた。
そうだ、リボーンはアルコールが入っていないとは一言も言っていない。
ウィスキーやブランデー「は」入って無いと、そう言ったのである。
その中にオレンジリキュールは含まれていない。
「だ、だましちゃな…」
「騙したんじゃねぇぞ?黙ってただけだ」
楽しそうに笑うリボーンの顔面に一発お見舞いしてやりたかったが体にはもう力は入らない。
オレンジリキュールのアルコール度数はそれなりに高い。
それを三個も食べてしまった体は残念ながらヘロヘロだ。
(うう…今年もまたハメられた…)
毎年毎年、なにかしらの策にハマりリボーンにおいしく頂かれてしまっている。
今年こそはと思っていても、やっぱりこうして騙される。
わかっているのに騙されるのは、正直綱吉にも落度はある。
本当に嫌ならここに来なければいいしチョコレートも食べなければいい。
(でも、来なきゃ来ないでひどい目にあうし、チョコだってどんなに抵抗しても結局食べさせられるんだろうし…)
だから最初から無駄なことはしないだけなのだと必死に自分に言い訳をしてみるが、言い訳をしている時点で自分が負けていることになると綱吉自身も本当は気が付いていた。
認めたくないだけなのだ。
たぶん、こうなるだろうと予測はしていて、けれどもそれをどこかで期待している自分がいることを。
だって、何だかんだ言ったって恋人同士だ。
綱吉はリボーンのことが好きで、リボーンだって綱吉のことが好きで。
触れ合うのはごく自然で、それが気持ちいい事となれば、嫌がる理由などどこにも無い訳である。
だから、
「体熱いから、どうにかして…」
少しだけ頬を膨らませ怒った顔を作りながら、それでも両手を差し出してどうにかしてくれとリボーンにねだる。
それがリボーンの狙いだと分かっていても、この熱をどうにかしてくれるのはリボーンしかいないから…
「今年もまた濃厚なバレンタインにするぞ」
「バカ、変態…」
ついつい悪態を吐くと、黙れとばかりに四つ目のチョコレートをくわえたリボーンの唇が重なってきた。
甘いチョコと気持ちのいい唇のおかげでトロトロと意識が溶けていく。
綱吉はこのまま身を任せてしまおうと目を閉じた。
(もういいや。だって今日はバレンタインデーだし…)
大好きな人に、大好きだと伝える日だ。それにかこつけて、甘えるのも悪くはない。
そう思って体の力を抜いた時だった。
ふと、綱吉は何かを忘れているような気がして再び目を開けて首を傾げた。
「あれ?」
バレンタインデーと言う言葉に引っ掛かりを覚える。
何か、大切な事を忘れているような…
「どうした?」
急に考え事を始めた綱吉にリボーンがどうしたのかと尋ねるが、その手はそそくさと綱吉の服にかかっている。
アルコールが効いて綱吉がふにゃふにゃになっている間に美味しくいただいてしまう為にだ。
普段は恥ずかしいからと抵抗の多い綱吉も、アルコールが入ると素直になるようで甘えてくる。
そんな綱吉をタップリと堪能するのが毎回の楽しみだ。
出来れば普段から甘えては欲しいのだが、たまのシチュエーションだからこそ楽しみである事も違いない。
だからずっとこのチャンスを待っていたのだ。それを逃す訳にはいかないとリボーンは手を止める事なく、けれども何か綱吉の様子が気になって尋ねながら、そう言えばまだ綱吉の肩に下げられたままになっていた鞄に気がついて手をかけた。
その時だ。
綱吉が「あー…」と思い出した様子で鞄を引き留めた。
なんだ?と綱吉を見れば、
「中、これ、開けて?」
もう手に力は入らないのだろう。
鞄を開けてもらえるようリボーンに頼んできた。
リボーンは仕方なく綱吉を脱がす手を一度止めて鞄を開けてやる。
そこにはテキストやレポート用紙の他に奈々のお手製だろう空のお弁当箱などが入っていた。
だが、他には特に変わった物は何も入っていないようだ。
すると綱吉は違う違うと首を振り、脇のポケットを開けろと言ってきた。
今度はそちらに手を入れる。
と、何やら袋のような物が手に当たった。
引っ張り出して見れば、それはどうやらチョコレートのようだ。
しかも手作り。
「おい、まさか誰かに貰ってきたんじゃねぇだろうな?」
途端のリボーンの機嫌が氷点下まで下がった。
すると綱吉は慌てて首を振り、
「違うよ、それ、俺が作ったの…」
小さな声でそう告げた。
「は?」
リボーンは思わず聞き返す。
今、綱吉は何と言った?
作ったって言ったか?
まさかこれは綱吉の手作りだというのか!?
驚きのあまり硬直するリボーンに、綱吉は恥ずかしそうにしながら、
「だって、何だかんだってリボーンは毎年手作りのチョコをくれるだろ?だから…」
今年は自分も手作りにしてみた。
そう言って笑う綱吉に、リボーンは自分の胸が馬鹿みたいに感動して震えるのを感じた。
なんてこった。毎年綱吉からは市販のチョコレートを貰っていた。
それがどうだ。今年はついに手作りだ。
これが嬉しくないはずがない。
「ありがとうだぞ、ツナ」
チョコレートの入った袋を大事に抱え、思いを込めて頬にキスをすれば、綱吉も真似してリボーンの頬にキスをした。
「後で味わって食べるぞ」
「うん」
本当は勿体なくて食べずに取っておきたい所だが、食べると言ったリボーンに綱吉がとても嬉しそうに笑うものだから、これはしっかり味わって記憶に残す事にした。
「でも、チョコの前に俺を食べてね?」
渡せてホッとしたのだろう。
続きをねだってくる綱吉に、リボーンも勿論異論はない。
「タップリ愛してやるからな」
体もチョコも、全てが愛しい。
嬉しそうに笑うリボーンに、綱吉も幸せな気持ちになる。
今年のバレンタインは、去年にも増して忘れられない幸せな日になりそうだ。



ほら、心を込めた贈り物は、君の心に必ず届く。
大好きの気持ちを形にして、今年も君に、チョコレートを贈ろう。


-おまけ-

「んぐっ!ツナ、おまっ…これ!チョコに何入れやがった?!」
「え?だってリボーン、甘いの苦手だろうから、甘くないように唐辛子を…」
「っ!!…わかった、来年は一緒にチョコ作るぞ…」
綱吉初めての作のそれは、破壊的に苦くて辛いチョコレートだったと言う…


(終)

---------------------

戻る

-1-


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -