銀の髪に、銀の瞳。
わざわざ名を問わずとも、この街の住人であれば一目で、だれ、と分かる。

――これが、『白龍』。

振り向いた客たちは、常にないその色にまず息をのみ、ついで冴えた美貌にため息をついた。噂にばかりは聞き知っているが、直に顔を合わせたことのあるものは多くはない。

煌々しい姿を間近に仰いで、しばし言葉を失った客たちを見向きもせずに、『白龍』がすたすたと店のうちへ歩み入る。

「これは、『白龍』さま。このようなところでお会いするとは、珍しい」

案内を待たず、勝手に椅子にかけた『白龍』に、我に返った男が愛想笑いだ。

「給仕どの、大変なお客さまがおいでですぞ」

奥へ声を掛けようとした客の1人を、鷹揚に手を上げて『白龍』が遮った。

「ああ、そう構うことはない。忍びなのでな」

「はあ……」

そんな目立つ容貌を隠しもせずに、どこが忍びなのか、という言葉を周囲の客らが飲み込むようだ。

「街の様子をご覧になられるついでに、気まぐれな散策というわけですかな」

下々を気にかけてくださる『龍』でありがたい、と世辞を言う別の客に、に、と笑って、

「ただの息抜きだ。なかなか会えない想い人の顔を見に、な」

『白龍』が見やった先に、美しい瞳を驚きに見張った給仕の姿だ。

「……いらせられませ、『白龍』」

漆黒の眼差しを恐れげもなくひた、と『白龍』へ向け、まずは丁寧な拱手である。

「本日はおひとりでお越しでしょうか」

おとなしげな給仕の言葉にくちびるを歪めて、『白龍』が彼の手を取った。

「美しいな」

「……お忙しいかたに、このような店までおいでいただけるとは思っておりませんでした」

「素封家どもにばかりその姿を見せておくのは惜しいと思いついてな。いっそ白龍屋敷に雇い入れようか。茶を淹れるのならば、わたしだけに淹れればいい。」

「…………お茶でしたら、おっしゃっていただければ、いつでもお屋敷にお届けにあがりましたのに」

「いつでも、とはまた、口先ばかりの台詞を吐いてくれるものだな。どうだ、こんな店のことなぞ放っておいては」

睦言のように囁いて、戯れに指先に口づける。

「………………『白龍』」

呆れて見守っていた周囲が、微笑みを浮かべた給仕の優しげな声音に、なぜだかぞくりと身を震わせた。

「身に余るお言葉ですが、このような場所でそんなことをおっしゃっていただいては困ります」

客たちが、いましがたの寒気をごまかすように大げさに笑う。

「さようさよう、あなたさまが美しい給仕どのに心を奪われたとあっては、想い人とやらが悲しみますぞ」

「では、悲しむかどうか試してみよう」



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