白龍市、龍江街に目立たない茶房がある。
店の名を東州茶房。
界隈の素封家や文人なぞが午後の時間をつぶしに通う、品の良い店である。

どっしりと腰を落ち着けるものもあり、席を温めただけで名残惜しげに帰るものもあるが、たいてい2、3人ほどの客の姿がつねにあった。

茶房の主が女主人に変わった後も、どこか俗世から離れたような静かな店の雰囲気は相変わらず。
店里の内に満ちるのが、漂う上等の茶の香りと、罪のない噂話だ。
なにやら仙郷に迷い込んだような、と客にため息つかせる理由が、ひとつには、茶を供する若い給仕の美貌である。

年のころが十八、九。
艶やかな黒髪を後ろでひとつに束ね、花鳥の繍の袍を纏った姿だ。
男衣装の美姫にも見える涼やかな美貌をにこ、と笑ませて、

「こちらは青龍から取り寄せました、夏花の香りの花茶でございます。甘く煮た棗とご一緒にお召し上がりくださいませ」

会話の邪魔にならないよう、控えめに茶を勧める。
値千金の微笑を向けられて、なにやら茶の美味が増すようだ、と客たちが喜ぶ顔だ。

「ときに、今日はご主人の姿が見えないが」

若いとは言えないが、どこか華やかな気品のある茶房の女主は、女らしい細やかな心配りと穏やかな物事とで、矜持の高い金持ちたちにも好意をもって迎えられていた。
具合でも悪くされておいでですかな、と案じる恰幅のよい男に、給仕が淡い笑みを浮かべて頷く。

「はい。この暑気にあたりまして、少々……ご心配をおかけして申し訳ございません」

「無理もない。今年の暑さは格別ですからな。くれぐれもお大事になさって、早く我々の相手をしてくださるようお伝えいただけるかな」

「ええ、お心遣いありがとう存じます」

汚れた茶器を取り上げて給仕が奥へ引っ込むと、再びなごやかな世間話が始まった。

そのとき、新たに訪れた客の気配に、澱んだ暑気が、ふ、と揺れる。

何の気なしに戸口を振り向いた1人が、

「お、」

短く声を上げた拍子に、熱い茶碗を傾けた。危うく雫を袖にこぼされかかった男2人が、いったい何事かと視線をめぐらせた先。

「おや、これは……」

現れた客の姿に、3人の客は揃って声を失った。



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