かめんぶとうかい-2





 楽しそうな仮面の男女をかきわけかきわけ、タバサは別室の軽食が置いてある部屋にたどり着いた。
 こういったパーティーを開くときは、別室にクッキーやサンドウィッチなどを用意しておくのはごくごく一般的だったのだが、楽しい楽しい舞踏会でわざわざ食べ物を食べたいという変わり者も少ないだろう。
 その部屋は先ほどの会場よりはかなり小さく装飾も質素だったが、やはりそこかしこに品がそえられた部屋だった。中央のテーブルには芸術的に並べられたワイングラスや銀食器にのせられたクッキーがのっている。

 ここで棒立ちなのもいただけないためクッキーを一枚つまんで口に入れてみる。
 クッキーを口に入れた途端にふんわりとしたバターの香りと、酸味のある苺ジャムの香りが広がった。

 この味はいつもラインハットを尋ねたときにいただくクッキーと同じ。マリアから手渡されるナプキンの中に入っていたクッキーと同じ。コリンズの部屋にいつもあるクッキーと、同じ味だった。

 「なんか感傷的になっちゃう」

 そう言ってもう一枚口に運んでみる。
 それを数回繰り返していくうちに、タバサは悶々としてきた。

 ―――なぜ、私が来てはだめなの。
 ―――こどもってどういうことよ。
 ―――私のこと仲間はずれにしたいの。

 むしゃくしゃしてクッキーを食べる速度も速まるが、ついにお腹が悲鳴をあげた。
 もう食べられないわけではない。コルセットがぎゅうぎゅうと腹部を締め付けて苦しいのだ。

 「くっ、メイズめぇ……」

 メイズとはグランバニア城を仕事先とする女中で、御年29歳。性格はおだやかだし茶目っ気もあることから、タバサ含めレックスやビアンカ、リュカもひいきにしているメイドだ。
 メイズは今やグランバニアの女中であるにしろ、実はグランバニアで屈指の名門一族のご令嬢であるため舞踏会にもくわしかった。そこで今回ここにくるにあたっていろいろと教えを乞ったのだがなんとも厳しくて、「コルセットを着けるときは骨が悲鳴を上げても締めるのが当たり前」などと言いぎゅっとコルセットの紐を引っ張ったのであった。

 よって、本日のタバサのウエストはかなり細い。おまけに胃袋も細い。

 もうこれ以上クッキーをつまむべきではなさそうだ。

 手近に配置された華奢な長いすに腰掛ける。


 そんなことを思って腹部をさすっていると、後ろから声がかかった。


  
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