▼ 仮面舞踏会-5
「私、こう見えても小さいときはお転婆で、よく弟を連れまわして遊んでいたんです」
僕が先ほどの発言にどう返してよいかまごついている間に、彼女は話し始めた。
「足も町の子供の中で一番に速くて、これなら魔物でも倒せるなんて自惚れて。町の外に出てしまって」
「注意が足りなかったんです。後ろから魔物に襲われて脚が不自由になったのも、自分がちゃんとしていなかったからで」
「自業自得ですよね」とどこか切なげに微笑む彼女を眺めていたら、彼女ははっとしたように両手で口を押さえて「なんで私、このような事を話してしまったのかしら」とぼやく。やはりその姿も絵になるのがすごいと思った。
「弟さんもここへ? 」
「ええ……でも、弟は私のかわりに社交界をこなしてくれているのです。だからどうかその様な言い方はなさらないで」
思わず口をつぐんだ。言葉の端にでも、彼女の弟を責めるようなことを滲ませてしまったのだろうか。身体が不自由な姉をほったらかしてダンスしているなんてと思っていた自分の気持ちを見透かされて少し赤面する。
だが、彼女は大して気にしては居なさそうだった。逆に、少し楽しそうに笑う。
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それから僕らは裏庭で自分のことを話した。まるで生まれたときからずっとそうしていたかの様に居心地が良くて、あっという間に仮面舞踏会は終わった。
始終仮面を付けていたから最後くらいは外そうと仮面に手を掛けるけど、その手は押さえられた。
「今回は仮面舞踏会。最後まで仮面を付けてくださいまし」
と黒い仮面の彼女に言われて、結局は取らなかった。けれども、
「また近いうち、会えるよね。僕にはとびきりの魔法があるから、海をまたいですぐにサラボナへ行けるよ」
実際にそのとびきりの魔法……ルーラは父と妹しか使えないのだが、まあそのときはタバサにでも頼もうと思ってそう言った。
「まあ」
彼女はうふふと微笑み、自分もはははと笑う。
「シーナ、帰るよ」
後ろから声を掛けてきたのは金髪の青年だった。髪は長くさらさらしていて一本に結ばれていた。普段から手入れを欠かしていなさそうな髪をなびかせながらこちらへ来ると、僕を一瞬不信そうに見てからシーナの腕をつかんで去っていった。
最後に彼女はまたね、レックスと微笑んだ。
僕はなぜか、その顔が忘れられなかった。
仮面舞踏会
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