そっか、

私消えちゃうんだ。


もう一度会いたかったな、お父さんやお母さんや、友だちに。










鳴る雨音を嚆矢とする










「ねえ詩織、「私愛されてます!」って自信持って言える?」

学校の帰り道、隣を歩いていた友人が突然口にした一言は後に詩織の心に大きく響いた。
こんな愛なんていらないと何度も叫んで、結局それが詩織自身が驚くほどの強い殺意へと変わったのはこの数日後。

でもこの時はまだこの自由気質な友人の言葉に何時もの様に苦笑して、夕日が照らす道を二人して歩いていた。

「なに急に、愛に飢えてるの?」

「昨日読んでた本にそんなことが書いてあったの。ね、どう?」

「うーん‥、愛されてる‥と思う。」

「親にでしょ」

「あと友達とか。私の事、愛してるでしょ。」

「あはは自信過剰!でも好きだよ詩織、そんな馬鹿なとこも大好き!」

「痛い!」

ぎゅうっと抱きしめられた瞬間、学生鞄が詩織の身体にバシッと音を立てて当たった。
しかしこれも愛ゆえか、と受け入れてやれやれと友人の頭を撫でた。
同じ年なのに、まるで保護者のようだ。

「ばいばい詩織、また明日ね!雨降るらしいから傘忘れないでー!」

「また明日―!」

駆けて行く友人の背に向って手を振った詩織は自宅の中へと入る、パタンと玄関の扉が閉まる音を聞きながら「雨か‥」と一言呟いた。

「前は好きだったんだけどなあ、雨。」

勿論登校時に制服や教科書が濡れたり靴が汚れるのは嫌だったけど、あのポツポツとした音が大好きだった。
子守歌と言ってもいいかもしれない、雨の夜はよく眠れる。

「今は嫌い」

水が嫌い、触れるだけで悪寒がして毎日の入浴もシャワーで済ます様になったのはここ最近の事だった。

「怖い」

水が怖い、音も色もその流れさえもが何故か恐怖を掻きたてて、蛇口から流れていくそれから視線を逸らせない事が度々と続いた。

手に触れればサラサラと流れる筈の水がねっとりと手に張り付くような異様な感覚、私はどうかしたんだろうか、何か病気か‥もしかして精神病とか?

親に言ってみても「おかしいねえ、泳ぐの得意なのにね」と的外れな答えが返ってくる、確かに水に入るのは好きだったけど特にきっかけもないのにこの変化はおかしいな、と悩んだりもするくらいなのに。

「それにこの“声”、なんなの‥」

水音と共に詩織に聞こえる声、初めは気のせいだと思ってたのにどんどん大きくなって無視出来なくなった。
本当に精神的な部分でどこかおかしくなっちゃったのかも、幻聴なんて。

「呼ばないでよ、私の事、呼ばないで‥」

いらっしゃい…

「どこに行くの、どこに連れて行くの?私は行かない、ここにいたいの。私の中から出て行って、お願い、お願い‥」

声は止まない、恐怖だけを掻き立てていくそれに耐えられなくて耳を塞いだ。

翌日学校に行かなければよかったんだろうか、それとも外に出ずに家にいればよかったのか。

どちらにしろきっと無駄だった、いつかは連れて行かれた。


あの声に。




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