「緋炎、今日はどうなんだ」

「好調。最近そればっかだな耶虎、他に言う事ないのか?」

荒れた大地の上で木ノ葉の暗部が一人、虎の面の下で溜息を吐いた。

風に遊ばせる飴色の髪は長く、緋色の瞳は血の様に赤い。
隣に立つ彼女の相棒は、色彩豊かな彼女と対を為す様に闇色に身を染めていた。

暗部服とは異なる黒い衣を身に纏い、艶やかな黒髪は短く白皙の肌を際立たせ、黒曜石の双眸の瞳孔は獣の様に縦に長い銀が走っている。

「死臭がする、この匂い‥儂は好かん」

「俺じゃない、あいつらだろ。」

緋炎が軽く顎で指し示すそこには切り裂かれた死体がいくつも積まれていた。

生の無い体からは死の香りが漂って、元は獣である耶虎の鼻には強く届き、彼は端正な顔を再び歪めた。










銀の虎と命を喰らう












「諜報部の報告とは随分違うよなあ、人数とか。そうだな特に、人数とか。」

わらわらと蟻の大群の様に押し寄せる敵の姿、緋炎は舌打ちしながら愛刀を肩に乗せた。

職務怠慢だ、変わらずの人手不足とはいえ適当な調査に突っ込まれるこっちの身にもなってほしい。

「目に見える数は多いが実際は3割辺り分身だ、人間の匂いがしない。」

「お、そうなのか。それでも多いけど、だからこそ俺に回されたってとこかなこの任務」

「見分けがつくか?」

「この闇じゃ無理だな、取り敢えずぶった切る。」

緋炎と耶虎はその場を動かない、代わりに敵が間合いを詰めて来て、ついにその塊の統率者らしき男の顔を闇の中で確認した。

怒り心頭、殺意は痛いほどに感じる緋炎は愛刀を握りしめてゆっくりと掲げた。

赤い刀身が闇の中で鮮やかに色を馳せる、緋炎だけが扱うことが出来る唯一の刀、紅鱗。

「あいつらを‥殺せ!」

闇を裂いて低く地を這う声で男が大きく叫んだ、それに呼応して敵の姿が周囲に散って瞬時に気配を隠される。

緋炎は動かない、動く必要はない、彼らの標的は自分たちだ、仕留める為に必ずこの間合いに入って来る。

でもそれじゃあ、つまらない。

「耶虎、お前左な。俺は上から。」

「待っ‥緋炎!」

「巻物の奪取が最優先!後から総隊長にグチグチ言われるのは勘弁だからな、確認してから殺れよ!」

耶虎が振り向いた時にはもういない、頭上高くで刃を弾く硬質な音が響き、間をおいてボタボタと落ちてくるのは先ほどまで人間だったはずの肉の塊だ。

獣の瞳に映り込む時折光る緋色の宝石、確かに好調そうだが、そのじゃじゃ馬ぶりはどうにかならないのかと耶虎は腕を組んだまま空から視線を外さない。

絶えず降り注ぐ血沫、空で猛る炎と水と刀が緋炎の流麗な動きを映し出し、まるで踊っているような錯覚を覚えさせるようだ。

「全く、この匂いは好かんと言っておるのにあの娘は。」

出会ったのはいつだったか、主と定めてからずっと傍に居るがあの娘には飽きる事が無い。

キュウ、と瞳孔を細めた耶虎は自身に向かういくつもの殺気に意識を集中し、その場から姿を消した。

夜の闇に断末魔が響く、それが生きている実感をもたらすのだと気付いてしまったのは、緋炎にはひどく辛い事だった。

それでも緋炎は舞う、それが自分を死から救い、里を守ることに繋がるのだと信じて。



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