「何年振りだ?黒蝶」

「何年、などでくくれるほどの年数ではないよ。久しいな白沢」


花のひとつもない緑の深い森の中、桜色の髪が舞った。
今日この日だからこそ出会った、そんなひと時。










黒蝶×白沢  さくらいろノいろ










仙狸は昼寝。
いつでもどこでも着いて来ようとするあいつのこの時間は私にとっては千載一遇もの。
この時間逃すものか!と、なんとか第二関門である最愛の妹を振り切り第三関門の女中頭も突破した。
あの妖に付き纏われてから数日経つ、今日こそ捕まってなるものかと京の外まで足を延ばした。


辿りついたのは京から少し離れた森の奥。
浅葱と出会った森に似ているなと思い当る、思い出に耽るなど自分らしくもない。
そろそろ浅葱も身を固めればいいのに山奥に引っ込んだままだ、今度連れ出してやろうか。


『さて、どこか休むところは無いか‥』


甘味と茶は手放せない。
こっそりと買っておいた新作の砂糖菓子。
どこかいい場所は無いかと歩き回ればひときわ大きい木を見つけた。


『ほう、これはこれは‥まさに大木。』


見上げれば上の方には太い枝が何本も伸びている。
これはいい、ニッと笑い高く跳躍して枝に上った。
トントンとより高く上がっていけば座るのにちょうど良さそうな枝の上、腰を下ろして眼下を望めば素晴らしい景色が広がった。


『京から近ければ良かったのにな、この景色は捨てがたい』


一度二条城に上ったことがある。
全てにおいて京の頂上にある城、どんな景色かと行ってみればなんのことはないただの都が見えただけ。
一人で数刻その場で過ごした。
この都が私を喰らうのだと、そう心に焼きつけながら。


『甘味は好きだがな、京の都には雅な物も多いし。さて砂糖菓子砂糖菓子‥‥っわ!わわわ!っなんだ!』


大事な砂糖菓子!
包んだ布から出そうとしたら突如上からすごい勢いで葉が降ってきた。
時々枝も落ちてるじゃないか!菓子に当たったらどうしてくれる!?
雨か?それとも槍でも降って来たかと上を見上げると声を掛けられた。


「すまない、まさか人が居るとは思わなくて」

『‥‥‥‥白沢か?』

「‥‥‥‥‥‥黒蝶?」


緑が埋め尽くす視界の中、明るい桜色の髪が広がった。
忘れもしないその青と赤の瞳、以前会ったのはいつだったか、

お互いその時と変わらぬ姿に苦笑した。






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