「なんだ、今回は斬りかかって来ないのか?」

『刀が無い、‥‥別に前回はそんなことしなかっただろう?古い話を何度もするな』

「はは、あの時は本当に驚いたからな、神獣であるあたしに斬りかかってくるなど」

『‥‥神など嫌いだ』


黒蝶として生きなければならない事を恨む。
それを定めたのが神であるのならばやはり恨む。


『と、昔は思ってた。』

「今は?」

『私は黒蝶、これは変わらない。受け入れて進むしかないだろう?悩もうが苦しもうが時は過ぎていく、ならば自分の足で立って歩んだ方がいい』

「あの時とは随分変わったな」

『‥昔、そう言われたんだ』


きっと何気なく言った一言だったんだろう。
それでもその一言で救われた部分もあった。
そう思うと今自分がやろうとしていることはどうなのかと問いたくもなる、しかしそれが自分の選んだ道ならやはり進むしかないんだろうか。
‥復讐に生きるなど、きっと怒るだろうな。


『で?何でここにいるんだ白沢様は、』

「ああ、ちょっとな‥」

『なんだ?』


問いかければ苦笑する。
覚えている限り強い意志を持った目の前の“神”。
軽く空を仰いで答えた。


「‥‥いや、今日はあたしが生まれた日なんだ。この日の人の世はどんなものかと思ってな、少し外に出てみた」

『‥‥‥何かいつもと違うか?』

「そうだな、笑顔が多いような気がする。陽も暖かく緑は美しい、走り回る子供たちも皆元気だしな。」

『そうか、そう言われるとそうかもな。』


自分の今生の家族‥身近な人しか見てこなかった。
遠くに目を向ければまた違う。やはり神だな、言葉の一つ一つに光が籠る。


『仕方ない、これをやる。』

「‥?」


赤い紐で結ばれた小さな包みを手渡せば不思議そうに見つめている。
やがて解かれた紐、中にある物に微かに笑みを見せた。


「桜?」

『砂糖菓子のな。限定なんだぞ、その色は表現し辛いらしくてなかなか店に出ないんだ。』

「‥貰っていいのか?」

『ああ、生まれた日だと言うし‥以前斬りつけた詫びも込めて』

「は、自分で気にしてるんじゃないか」

『煩い。‥一応言っておくけど菓子だからな、ずっと飾っておくなよ』

「‥‥‥‥わかった」

『間が怖い。』













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