「ふん、ふふーん」



鼻歌を歌いながら、緋乃はスキップで町を歩いていた。

今日は珍しく女の姿をしている。
気分でこの姿になったが、思いの外、店の人たちのサービスがいい。

道行く人に「お茶でもしない?」と声を掛けられ、喜んでついて行くと相手の奢りでケーキまで食べられた。


こっちの姿も、まぁ悪くねーな。
と言う訳で、緋乃は今上機嫌なのであった。














「皆良い人たちばっかりだよ、ホント!・・・お?何だあれ」



人だかりを発見してスキップを止めて立ち止まる。
興味を持った緋乃はちょこちょこと寄って行って、その高い背を利用して人の後ろから覗き込んだ。











「はいカットー!!オッケー、じゃあ次の撮影に進もうじゃないか」


「はい!」


「わー・・・撮影してる・・・!」






最近緋乃がハマっている刑事ドラマの撮影だった。
まさかこんな所でやっているとは・・・!


もし自分が携帯を持っていて尚且つブログをやっていたら、写真を撮って「撮影なう!」とでも書き込んでいただろう。
しかも顔文字付きで。


今日はめちゃくちゃ良い日じゃーん!




目を輝かせていると、撮影組は何だか少し焦っている。
聞いていると、どうやらエキストラの子が事故で来れなくなったらしい。

一人でも休むと撮影に支障が出るようで、緋乃はそれを見て大変だなぁ、とのんびりと呟いた。





その時、監督と思われる人物の目が緋乃を捉えて“おいでおいで”と手招きする。










「?」


「君、君だよ君!そこの赤い髪の女性!」




赤い髪、と言えば俺・・・?って、今女の姿だった!
じゃあ俺しかいねーじゃん!!

はい!と手を上げると、ザッ!と人混みが割れて道が出来た。
その道を進むと、監督は腕を組んで唸った。









「う〜ん・・・パーフェクツ!!」


「は・・・」





何だか清継くんみたいなテンションだな、この人。
そう思いながらも緋乃は監督を見詰めていると、監督はニヤリと笑った。











「この人を使おう!君、エキストラとして出て貰うよ!」


「え!ホントですか!?是非!」




と言うか今の言い方拒否権無いよ!
でも嬉しいから敢えて突っ込まない!と緋乃は笑顔で何度も頷いた。

何の役かなぁ、もしかして主役!?えへへ〜。


エキストラという時点で主役な訳はないが、今の緋乃は興奮と嬉しさのあまり思考回路が止まっていた。
監督が何やらスタッフに言わせて用意された衣装、それは・・・










「君にはカフェの店員の役をやってもらうよ」


「お・・・おぉ・・・はい」





さっきまでの興奮はどこへやら。
少し落ち着いたテンションで返事をする。

困惑しているのか手渡された衣装を、口を開きっ放しで見ていた。









―――・・・スカート、短くね・・・?






衣装を目の前にした緋乃の正直な感想である。

確かに今は女の姿でスカートというのも判らなくはない。
けれどやっぱり行き着く先は「スカート短くね?」であった。
しかも監督に指示された衣装さんは、嬉々として「白いシャツは第二ボタンまで開けて下さい!」と言う。



皆俺に何を求めているんだ、と思いながらも監督、そして衣装さんの期待を裏切りたくないと思うと口答えすら出来ない。
しかもエキストラに選んで貰ってる立場だし・・・


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