視界一杯に広がるのは、緑、緑、緑、木、木、木――――。







「―――――」




木陰から聴こえる、艶やかで澄み切った歌声に引き寄せられるように、歩いていた。

自分が何処に出てしまったのか―――見当がつかないが、ただ、歌声の主を探して、着物が汚れるのも構わず、伸び放題の草を掻き分けて進む。


そして辿り着いたのは、古びた小さな神社だった。
その裏手に、木々に埋もれるようにして建つ小屋。
鉄柵がはめられ、錆だらけの鎖と泥まみれでふやけた札が張り巡らされた―――




「…檻?」



檻―――そう表現していいのだろうか。

正面の鉄柵、それに絡まる鎖がそう思わせる。
どちらも錆付いていたが、狸や狐を閉じ込めるくらいには充分であろう。


しかし、そこには狸や狐ではなく、人の気配があった。


「…ど、どちら様、ですか…?」


何処か困惑気味の、少女の声。
身体を屈めて、その"檻"を覗く。



そこに居たのは、手足につけられた枷を引き摺り、不安そうに眉を下げた少女だった。



 

いつの間にか、歌声は止んでいた。







     
    
        


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