緋乃の仕事内容は夜間の交通整理だが、どうしても人数が足りずに昼間でも建設作業があれば警備に借り出される事がある。
今日はそんな日だった。










「やぁ緋乃くん、今日は昼からなんだね。お疲れ様」


「あ、どうもです!」






手を軽く上げて挨拶してきた初老の男性に、緋乃は腰を折ってお辞儀をした。

ここら辺の警備に借り出される緋乃には、その人柄もあってかよく人が話しかけてくる。
交通整理をしている時には、窓を開けてわざわざ声掛けしてくれる人もいた。
そして話しかけてきたこの人も、よくここ一帯を通る人の一人であった。


紳士、という言葉が似合いそうなその男性はにこにこと笑顔の緋乃に、じゃーん!と紙袋を差し出した。












「そんなに頑張っている君にこれをあげよう」


「わー!ありがとうございます!・・・って紅福饅頭!?」






目をキラキラと輝かせながら、紙袋を受け取り天に掲げる。
子供のような様子を眩しそうに見詰めた男性は、それじゃあ頑張ってね、と緋乃の肩を叩いて微笑ましげに去って行った。

その背にもう一度頭を下げると、緋乃はそれをどこかに置いておこうと急ぎ足で自分の荷物がある所へと移動し始めた。












「疲れた時には甘い物!終わったら、のんびりお茶とかで和みたいなぁ〜」





少し顔をニヤけさせながら、緋乃は心ここに在らずで歩みを進めている。
そうだ。納豆くんも一緒に食べるかな、と鼻歌でも唄い出しそうだ。

何度も何度も紙袋を天に掲げ、嬉しそうにはにかむこの表情をあの男性が見ていたら、もっと喜んだだろう。
どれだけ嬉しかったんだ、と突っ込みたくなるようなその様子は男の姿の緋乃では少しおかしいではあるが、生来の整った顔で黙殺されている。




完全に足元を見ずに、軽くスキップの歩調になった緋乃。


・・・しかし、それが災いした。













「でもやっぱりうちの家主様にも持っていかねーと・・・おうっ、・・・?!」





肝を冷やした。
ビックリして声が出ず、そのまま浮遊感に見舞われ穴の中へ落ちて行く。











「おい、警備員が穴に落ちたぞ!!多分緋乃くんだ!」


「えぇえっ!?だ、大丈夫かー!?」








工事をしていた人たちが緋乃の名前を呼ぶが、結局穴の中に姿は見当たらなかった。


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