銀水side





夫?と喧嘩した。


何故疑問形なのかというと、夫婦になったのかなってないのかわからないから。あやふやにもほどがある。



あの野郎、イケメンだからってちやほやちやほやと女に囲まれて、へタレなものだから追い払おうにも結局流されやがって。



余りにもムカついたのでその女たちの前で顔面に蹴りを食らわせてやった。いい気味だ。

どうせ偉大なる水の神竜なんだからすぐに完治するだろう。




そういえば、昔何処かで誰かに同じことをやった気がする。




威勢がいいわりには余りにも弱かったクソ餓鬼だった。仕方がない、私の方が百年年上だったんだもの。






―話が逸れたけど、夫?……面倒くさいから水龍でいいや。

水龍から逃げてきた。私が居なくなってオロオロすればいいのよ。

やけにカタカナが多いのは、私は未来がわかるから。




<姫>だけが持つ特別な力。代々その<姫>によって能力は異なるのだけど、なぜ私はこんなつまらない力なのか。 




そんなこんなで気まぐれに川を流れてきた。泳ごうとも思ったけど、浅いから鱗に傷がついてしまう。


『美少女、いないかしら』


配下の蓮水達は置いて来てしまったし、水龍に絡んだ女達は可愛げがあっても下らないし、京一の美女と噂の珱姫なんかお偉い様だから会えるわけもないし。





ボンヤリと流されていたら、不思議な気配を感じた。

そういえば私が殺し損ねた妖怪が「黒蝶がいる」って言ってわね。

蓮水に調べさせたらその女も追われているみたい。


何度も同じ痛みや苦しみを味わって、今はどんなふうに過ごしているのかしら。






"死"ってどんな感じなのかしら。






私達人魚も追われているけれど、正反対。


私達はこの世の理を守る為に生きるのだけど、黒蝶は死ぬために何度も生まれる、みたいな。





是非とも会って話がしたい。



『………きっと妖怪は嫌いなんだろうけど』



急に外が見たくなったのと魚が寄りついてきたのが重なって、思い切り水面から飛び出した。





不意に痛いほどの視線を感じてその方向に目を見やる。




ん?




『あら』



真っ黒黒助の猫は放っといて、隣にいる女の子を凝視する。




そんなに固まってたら甘味が落ちてしまうよ。




じゃなくて。




『貴女やっぱり…―』




あらあら、警戒していらっしゃる。そうよね、水から飛び出した女が水面歩いて迫ってくるんだもの。

人が多い所が苦手なのか、森の中の河原でゆったりしてたのね。



じゃなくて。



『やっぱり…―



 美人さんだわ!!!!』





「「は!?」」



銀水side了


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