sample | ナノ そういえば。

網問さんは……この時間帯には大体寝てる事を思い出した。

何も考えなく声をかけてしまった事を後悔し、もしや起きてしまったのではないかと思い、そっと障子を開けてみる。


(良かった……寝てる)


背を向けてはいるけれど、規則正しく上下に揺れる肩を見て、安心する。

どうしよう。こっそり予備の布団を借りて寝ようか。

そう思ったけれど、私は気づいてしまった。

網問さんは布団の端の方で寝てるため、その隣が丁度空いている事を。


「…………」


いけない事、なのに。

気がつけば、私は……そっと歩み寄ると、網問さんの布団の中に入りこむ。

なるべく起こさないように、彼の背中に身を寄せると、瞼を閉じた。


(……安心する)


相変わらず、網問さんは寝たままだけど、彼の傍にいる幸せを感じて満たされる。


…そのまま、寝ようとしたら。


「…いーけないんだ」

「!?」


あれ、起きて、と、言う暇も与えられず。

いつの間にか組み敷かれて、にやりと微笑む網問さんに見下ろされた。

彼の長い髪が、私の頬に当たる。


「網問、さん……?」

「◯◯ちゃん大胆だね。夜這い?」

「よば…!?」


真正面からとんでも無い事を言われ、ぱくぱくと口が開く。

そんなつもりじゃ…!、と一応抗議する。


「わ、私の部屋が雨漏りしまして、眠れなくなったので、それで……」

「俺の布団に入っちゃった?」

「う……ご、ごめんなさい…!」


恥ずかしいやら申し訳ないやらで、熱い顔を掌で覆う。


「はは、ごめんごめん。嘘だよ。本当は嬉しいよ」

「……ほんとに?」

「うん。ほんと」


不安気に見つめていたら、彼の顔が近づいてきて、ふわりと口付けられた。


「好きな女の子と一緒にいられて、嬉しくない男なんていないよ…」

「…っ」


眼前で、触れそうな距離で囁かれて、また口付けられる。

胸いっぱいに広がる、甘い感情。


暫くそうしていたら、網問さんは何か気づいたように聞いてきた。


「そういえば雨漏りって言ってたけど、部屋は大丈夫なの?」

「あ、はい。鬼蜘蛛丸さんと義丸さんが助けてくれたので…」

「…兄貴たちが?」


一瞬、網問さんの表情が険しくなったような気がしたけど、私は話を続けた。


「お二人とも優しいですよね。昨日の夕飯の準備もですね、鬼蜘蛛丸さんが手伝ってくれて…」

「………あのさ、◯◯ちゃん」

「義丸さんも、すぐ口説いたりしてきますけど、この前…、ッ!?」


最後まで話をしようしたけれど、それは叶わなかった。

網問さんが、…何の前触れもなく口付けてきたから。

さっきの軽く触れ合うのとは違い、深くて長い長い口付け。

舌を奥へと差し込まれ、時折吸われ、息が続かない。


「…ッ、ふ……っ」


やっと解放されて、はぁと酸素を取り込んだ。身体が熱くてじわりと汗が滲む。

いきなりこんな事をされて、どうして…と、目で訴える。


「俺と一緒にいるのに、他の男の話をするなんていい度胸だね…」

「!」


鬼蜘蛛丸さん達は、私達のお兄さんで、仲間だし。

まさか、……網問さんが嫉妬するとは思わなかった。

しまった、と思ったけれど、時既に遅く。


「◯◯ちゃんは俺のなんだからさ…」


しゅるりと帯を解かれ、寝間着の間には手を差し入れられて…。

逃れようとすればする程に、追ってくる。


「今ここで、教えとく」


今まで聞いたことないような低い声と、見た事ない男の貌に。

私は今夜、覚悟を決めた。






2021/01/06
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