sample | ナノ 「どうした?◯◯」

「東南風さん…!」


呼びかけたらすぐ出てきてくれた東南風さんにほっとする。私は早速彼に事情を話す事にした。

実はかくかくしかじかと伝えると、東南風さんは「そうか」と一言だけ言うと私を部屋の中へと招いてくれた。

東南風さんの部屋に入った瞬間、意識してしまいどきどきする私。


「これから寝ようとしてたから。ちょうど良かった」

「そ、そうなんですね…」


部屋の真ん中に敷かれた彼の布団を見て、つい想像してしまった私は顔を赤くしてしまった。

今夜、一緒に寝る、と言うことは。

……きっとそうゆう事だよね?

そうとしか考えられない…!


「じゃあ、少し準備するから待っててくれ」

「は、はい…!」


何を準備するのかなと思い、東南風さんの行動を観察していたら、彼は押し入れを開くなり手を奥に入れると布団一式を取り出した。


布団一式を…………え?


「………東南風さん、それは?」

「ん?あぁ、安心しろ。つい最近洗って干したばかりだ」


いえ、そうじゃなくて!

てっきり東南風さんの布団で……じゃなくて!予想してた展開と少し違ったため呆然としていると、東南風さんは綺麗に布団を敷いていく。

ぴったりと布団同士は合わせてくれたけど……。


「枕はそれがあるから、いらないな」

「は、はい…」

「じゃあ灯り消すぞ」


私が布団の中に入ったのを確認すると、東南風さんは灯明皿の火に息を吹きかけ部屋全体が真っ暗になった。
東南風さんも布団の中に入り込む。


「おやすみ、◯◯」

「おやすみなさい…」


普通に挨拶を終えると、しんと静まり返る部屋。雨音だけが耳に響いていく。


え、これで終わり?


……何もしない!?


(や、東南風さん……)


顔を横に動かすと東南風さんは仰向けに瞼を閉じて寝ようとしていた。

改めて冷静になってみると、自分の考えていた事が恥ずかしくなり顔まで布団を覆った。


(もしかして私だけ?こんなこと考えてたの……ッ)


だとしたら部屋に入る前から羞恥心だった。
燃えるように顔が熱くなり更に布団の中に入り込む。

せっかく二人きりなのに、と思ったけど。

彼がそうゆう気分じゃないなら仕方ない…。


(おやすみなさい、東南風さん…)


彼の眠りを妨げないように、もう一度心の中で呟くと、私もなんとか眠る事にした。
ふと寝返りを打って、障子の方に視線を向ける。

明日には雨、止んでくれたらいいけど…。

ぼんやりとそんな事を考えていたら、背後からもぞもぞと動く気配を感じた。

東南風さんも寝返りを打ったのかなと思い一瞥すると、彼がすぐ私の傍まで来ていたから吃驚した。


(え?……!!)


ぎゅうと背後から抱きつかれたものだから、一気に覚醒する。

一瞬、何が起こったのか分からなくて。

だって今日、東南風さんは……。


「や、東南風さん…?」

「悪い、寝てたか…?」

「いえ……」


心臓の音がどくどくと鳴り響く。

え、これってもしかして……失くしかけていた期待が芽生えてしまう。

耳元に直接、東南風さんの低い声が届く。


「…なんか、いい香りがするな」

「え?私、何も付けてませんけど……」

「そうなのか…?」


確かめるように、肩に顔を埋めてきた東南風さんが擽ったくって身を捩る。

徐々に東南風さんの手が、私の腰に這わされたものだから身体が跳ねた。

掌から、東南風さんの熱が伝わる。


「……◯◯」

「な、なんですか……?」

「抱きたい」

「!?」


顔だけ振り向くと、東南風さんの頬は赤くなっていた。

さっきまで、全然そんな気配なかったのに…。


「や、東南風さん…?その、したかったん…ですか……?」

「?、当たり前だろ」

「…ええ!?」


わかりづらい。わかりづらいですよ東南風さん…!

と思ったけど、そうだった。
彼は元より、あまり感情を表に出さない人だった事を思い出した…。


「今日は、てっきり何もしないのかと…」

「そんなわけないだろ」

「っ…!ふ、布団も用意されてましたし…」

「狭いより広い方がいいだろ」


そうゆう事だったのか。なんだか気が抜けてしまった。

でも嬉しい。東南風さんも同じ気持ちだったから。

向かい合うと、東南風さんと視線を交える。


「!、…ん……っ」


間も与えられず性急に口付けられた。唇を割って舌も差し込まれる。

待って待って、待ってください東南風さん…。

……そんなに!?


「や、東南風さん…ッ。待っ…っ」

「…◯◯」


好きだ。

強引に、たった一言だけど。


触れられた唇と掌から、彼の愛情を感じた。


2020/12/05
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