sample | ナノ やっぱり寝てしまったみたいで、私の呼びかけた声は雨音の中に掻き消される。

間切さん以外の男の人と一緒に?は、抵抗がある。

かと言って起こすのも悪いし…。

色々考えた結果、私が判断した事は。


(失礼、しまーす………)


なるべく音を立てないように、慎重に障子を開いていく。

今日は一日、部屋の隅の方で寝かせてもらおう。

きっと朝になって起きたら、間切さんは吃驚するだろうけど……事情を話せばわかってくれるはずだ。

そんな甘えた事を考えながら、部屋の中央に敷かれた布団を見やると、彼の姿がない。


(あれ……?)


そっと後ろ手に障子を閉めて、ふと視線を横に移すと、壁際の方でとんでもない光景を見てしまった。


(ま、間切さん……!?)


私の予想通り。彼は寝てた、けど。

…とんでもない寝相の悪さで。

何がどうしてこうなったのか、布団が少し足に巻き込む形で丸まって、間切さんはすやすやと寝息を立てていた。


(…あれじゃあ、風邪ひいちゃう)


暫く呆然としてたけど、寝間着も肌けている事に気づいて、ゆっくりと間切さんに近づいていく。

しゃがみ込んで彼の寝顔を覗くと、普段の精悍な顔つきと違い、何処かあどけなさを感じる表情で。

…可愛い。


(はっ、いけないいけない……っ)


つい長い時間見つめてしまい、私は間切さんの足に絡んでいた布団を掴んだ。

早くかけてあげないと…。

何とか肩まで布団をかける事ができ、敷布団も間切さんのすぐ傍に置いておく事にした。一先ず安心する。


(おやすみなさい…)


そっと間切さんの頬に口付けると、名残惜しくも離れる。

本当は彼の傍にいたくて堪らなかったけど、今日は我慢しよう。

さて、私はあっちの方で寝て……と、立ち上がろうとしたら。

急に腕を掴まれ、目を見開いた。


(え…?…っ!?!)


ぐらり。身体がよろけた。

一瞬、何が起こったのかわからなくて、咄嗟に閉じた瞼を開くと、そこには逞しい褐色の胸が見えて…。

気がつけば、私は間切さんに抱きしめられていた。


(え……ええぇぇえー!?)


ぱくぱくと口を開きながら真っ赤になる私。
どうして、何で、と、頭の中が大混乱する中で必死に冷静になろうとする。

見上げると、先程と同じく間切さんは瞼を閉じて眠っていて…。

…寝ぼけてる、という事がわかった。


「ま、間切さん……っ」


流石にこれには声を出してしまい、何とか彼の腕の中から解放されようとしたけどビクともしない。

それどころか更に強く抱きしめられて…。

痛くはないけど、少し苦しい。


(うぅ、嬉しい、けど、なんか違います間切さん……)


複雑な思いを抱きながら、半ば諦め彼に身を委ねる。

…もうこのまま、寝てしまおうか。


瞼を閉じて、間切さんが傍にいる安心感も手伝ってか、徐々にうとうとと眠気が襲ってくる。

あぁ、やっと…と、思いきや。


「◯◯……」

「…!」


突然、間切さんの口から私の名前が漏れたから、目が覚めた。

もしかして起きた?、と思い確認すると。

…やっぱり寝てる。


(……ずるい)


いつものように名前を呼ばれただけなのに、どきどきした。

こんなに彼が穏やかに眠っているのは、きっと幸せな夢でも見てるのだろうか。

もしかしたら、その中には、

……だとしたら嬉しい。


(明日、起きたら吃驚するだろうなぁ……)


部屋の隅に移動してしまった布団に、隣には私がいて……間切さんの反応を考えるとふふっと笑ってしまった。

明日の朝ごはんは、間切さんの大好きなものにしよう…。

そんな事を考えながら、


今度こそ、私は夢の世界へと入っていった。






(!?!、…なん、で、◯◯がここに…!?)
(………)
(ね、寝てるのか…?)
(ん……ま、ぎり、さん……)
(!!、……可愛すぎるだろ)



2020/11/27
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