第5話:親じゃなくても可愛がってる子供に結婚してほしいと言われたら嬉しい




「やっと捕まえた」


扉が開くと、もう逃さないと言わんばかりに目元を黒い布で隠している白髪の不審者が内臓が飛び出そうなぐらい強く抱き締めてきた。この状況について一言だけ言わせてほしい。





―――どうしてこうなった。







******







拝啓、読者の皆様


初めまして。平成の世を駆け抜けていたと思ったらいつの間にか二度目の生を享け、ひょんなことから江戸のかぶき町という街でスナック嬢をしている寺田あかりと申します。

そんな私が今いるところは、東京都立呪術高等専門学校という高校の地下室。え?何故そんなところにいるのかって?ちょっと話長くなるんですけど聞いてくれます?

そもそも私、ここに来る前は父の墓参りのために墓地にいたんですよ。ここ最近それはもう忙しくて忙しくて週一で訪れていた墓参りにもなかなか行けず、今日は久しぶりの墓参りだったんです。

で、亡き父に溜まりにたまった報告をかねて目を閉じて手を合わせていたのですが、次に目を開けたらそこは見知らぬ天井……ではなく、見知らぬ神社にいたんですよ。

あ、実は私、ヤードラット星で修行もせずにいつの間にか瞬間移動の能力を手に入れてたみたいなんです。以前にもこんな現象起こったんですけど、その時は無事に帰ることが出来たし、まあ今回も何とか帰れると思うんでそこんとこは心配してないですね。

問題なのは衣食住。以前は名家の坊ちゃんに拾われたから衣食住は凌げたんですが、今回は何故か神社に瞬間移動してしまったみたいで…。

これからどうしたものかと困り果てているところに、頬から口が飛び出る少年と出会いました。これがまたこの少年めちゃくちゃ良い子なんですよ。

そうそう、墓参りの時は昼間だったんですけど、どうやら今は誰もが寝静まるような夜だったみたいで。そんな時間帯に女一人でいることに疑問に思い、声を掛けてくれたとか。なんて心優しい子なの?どうやったらこんな純粋無垢な子が育つの?かぶき町じゃこんな子育たないよ?

でも、そんな心優しい少年にまさか拉致られるとは思いもしませんでした。しかも、拉致られる前に「五条先生の初恋の人!!俺の目の前にいる!!」なんて叫ばれたんだけど、これなんて拉致監禁事件?

そして、訳も分からず連れて来られたのがこの大量の御札が貼られた地下室でした。あ、因みにここに連れてきた少年はここまで車で連れてきた眼鏡のなんか色々と苦労してそうな男性と話すことがあると言ってこの場にはおりません。

私は潔く、連れて来られてしまったからにはどうすることも出来ないと思ったので仕方なく大人しく少年達を待っていたら、冒頭の出来事が起きました。

その時、私はここは地下室じゃなくて何処ぞのSMクラブかなと思いました。あれ?作文?


PS.今時の高校って御札が大量に貼られた地下室が設備されてるんですね。生前じゃそんな設備なんてなかったし、今世では時代が時代だったので高校なんてものに通っていなかったので知らなかったです(笑)







******







「(―――って、(笑)じゃねェェェェェ!!!!!!)」



いや何とか頑張ってこの現状を理解しようとしたけど、これどうやったって理解できない案件だよ!?墓参りして目を開けたら神社に瞬間移動してたって何!?そして、この能力一体何!?前にもこの現象起こったけど何が原因で発動したのか分かってないんだよ!!こちとらただのスナック嬢!!ただの一般人!!

てか、なんで高校に地下室があるの?ここ本当に地下室?壁に恐ろしい量の御札が貼られてるんですけど。お岩さんの旅館並みに貼られてるんですけど。何か封印する儀式でもすんの?それともカオスな儀式でもして何かを召喚すんの?あと、私は何故こんなところに連れて来られたの?何故この不審者に抱き締められてるの?

なんて自分でここに来るまでの流れを回想して自分にツッコミを入れるという悲しい所業を行っていると、私を抱き締めていた白髪の不審者が唐突にスルリと目元を隠している布を外し、私の顔を覗き込んできた。うわ、この人めっちゃ睫毛なっっっが。


「ねえ、何で黙って帰ったりしたの」
「え?」
「僕は、……俺は、」


え、ちょっと待って。この人急に何言い出したの。口調的に私のこと知ってる感じだけど。え、知らない知らない。私こんな目隠しした怪しい人物なんて知らない。銀髪の知り合いは居るけど、こんな綺麗な青い目をしたイケメンじゃないもん。死んだ魚のような目をしたニート侍だもん。

何とか頭をフル回転にしてこのイケメンのことを思い出そうとするが、やっぱり思い出せない。これは本人にどこで出会ったのか確認するしかないよなぁ。

私は思い出すのを諦めて、意を決してイケメンに尋ねることにした。


「えーっとその、非常に申し上げにくいんだけど、私と貴方、何処で出会いましたか?」
「え」


あ、固まった。ていうか背景に物凄いショックを受けたような稲妻フラッシュの描写があったんだけど。え、私そんな傷付けるような聞き方した?普通に聞いたつもりだったんだけど。ほら、何事もノリとタイミングが大事って言うじゃない。え?タイミングが間違ってる?


「……覚えて、ないの?」


すると、私の質問によってずっと固まっていた白髪のイケメンがポツリと呟いた。その様子にこちらが戸惑っていると、


「俺のこと、忘れたのかよ……」


国宝級とも言えるぐらい整っている顔をくしゃりと歪め、私の首筋に埋めてきた。その際に白く柔らかい髪が顔に触れてくすぐったかった。



「(……あれ、何だろう。この光景、どこかで見たことがある)」



この雪のように白く柔らかい髪を。さっき見た地球みたいな青くて綺麗な目を。そして、今、目の前にいるこの生意気で泣き虫で甘ったれでわがままで世間知らずな子供ガキを。






―――私は、知っている。






「……さとる、くん?」






その名を口にした瞬間、音速のような速さでイケメンがバッと顔を上げた。うっわ、びっくりした。


「あかり、オマエ俺のこと思い出したの?」


あ、この驚き過ぎて国宝級の綺麗な顔が台無しになるぐらいのアホ面。これ悟君だわ。私が知ってる悟君より成長してたから気付かなかったけど、これ昔お世話になった五条家の嫡男の悟君だわ。というか、


「悟君、アンタいつの間にこんな成長したの。そりゃ周りを見下すぐらい大きくなりなさいって言ったけど、何も股下2mにもなるまで大きくなれとは言ってないわ」
「うん、このシリアスシーンを平気でブチ壊すその神経。オマエやっぱりあかりだわ」


少しでも疑ってた俺が馬鹿だった、と遠い目をする悟君。そしてそのまま、私に覆いかぶさるように全体重をこちらに委ねて抱きついてきた。え、ちょ、ま、


「あだッ!?」


案の定、背が2mもありそうな悟君を支えきれなかった私はそのまま後ろに倒れ込み、後頭部を強打した。あの、これ尋常じゃなく痛いんですけど。たんこぶ出来てたよこれ絶対。あと、数少ない脳細胞死んだと思うんですけど。どうしてくれるの。

悟君にこの痛みと脳細胞が減ったことを伝えると、「もしあかりが若年性アルツハイマーになろうがしわくちゃのババアになろうが俺が貰ってあげるから安心して」と言われた。何その気遣い。アンタそんな気遣い出来るほど大人になったの。昔はクソ生意気で気遣いのきの字も知らない子供だったのに。

そんな生意気な子供が立派な大人に成長したことに感動を覚えていると、悟君が起き上がった。でも立ち上がることはせず、左手を私の顔の横に置き、右手を私の頬に触れてきた。あれ、今の体勢って俗に言う押し倒しっていうんじゃ。


「ねえ、あかり。オマエが帰る前に俺が言ったこと覚えてる?」
「え」


悟君の言葉に、私は息が止まった。だって、悟君が意味している言葉は、その、



「嬉しいな。覚えててくれたんだ」



―――俺の一世一代の告白を。



ニヤリと不適な笑みを浮かべる悟君に私は戸惑いながらも、


「いや、ぶっちゃけると悟君を思い出すまで忘れてたわ。でも、安心してちょーだい。今バッチリ思い出したから」
「うん、オマエがそういう奴だってことは知ってた」


正直に今思い出したことを伝えると、悟君は両手で顔を覆った。え、何どうしたの。目にゴミでも入った?というか何か涙出てない?

急に黙り込んだ悟君を心配して慌てて起き上がり、肩を叩きながら声を掛けたけど返事がない。ただの屍のようだ。ええ、悟君ホントどうしちゃったの。あの潔さはどこいったの。ちょっと戻ってきてよー。


「うわ、あの五条を黙らせたよ。あの人一体何者?」
「悟曰く、ただのスナック嬢だって」


そして、悟君を心配していた私はいつの間にか地下室に入ってきていた二人の存在に気付くことはなかった。








******








☆初恋を拗らせに拗らせていたGLG
出張をマッハで終わらせて同行していた前髪を置き去りにして、高専へ戻ってきた。
上に見つからないように地下室にスナック嬢を監禁するように指示をしたのはコイツ。
地下室の扉を開けた瞬間、初恋の人がいて衝動的に抱きしめた。
でも、残念ながらその想いは鈍感というか思考回路がズレまくているスナック嬢にはなかなか伝わらない。
実はスナック嬢がシリアスシーンをぶち壊すまで本物かどうか疑っていた。


☆5話目にしてやっと名前が登場したスナック嬢
心優しい少年に拉致られて御札が大量に貼ってある地下室に連れてこられて驚いた。
そして、抱きついてきた不審者が昔お世話になったGLGだったことに驚いた。
あと、幼いGLGからの告白を思い出したけど、小さい子のよくある「俺ママと結婚する〜」的なものと認識してる。
実は知らない間に可愛がっていた子供がイケメンになっていてちょっとショックだった。


21/2/7 加筆修正





prev next
back