第3話:ちっちゃな頃から悪ガキで15で不良と呼ばれとけ






「若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ、何人たりともね」


硝子からの疑問に僕は淡々とそう答えた。


―――悠仁が死んだ。


いや、『殺された』といった方が正しいかな。ま、でも、宿儺の力のおかげで無事に生き返ることができたけどね。

今回、悠仁を含めた一年の任務は、とある少年院に現れたいずれ特級呪霊に成り得る呪胎とともに取り残された生存者の確認と救出……のはずだったが、蓋を開けてみりゃ全くの別物。

悠仁には、僕が無理を通して悠仁の死刑に実質無期限の猶予を与えていた。

けど、それを面白く思わない上層部が僕の居ぬ間に特級を利用し、任務という名を使った『両面宿儺の器』である悠仁の始末。そして、残りの一年二人にも生死も問わない危害を与えるといった、上からすれば一石二鳥な僕への嫌がらせをしてきた。


「(ああ、今思い返しただけでも腸が煮えくり返る)」


お互いの持ち場に戻るため硝子と別れたが、戻る途中に上層部の非道な手口を思い返して胸糞悪くなった。よし、こんな時は、






******






「おばちゃーん、ここからここまで全部ちょーだい」
「アンタ、毎回大人買いするのはいいけどいい加減常識ってのを覚えておくれ」
「えー、これでも控え目に選んだつもりなんだけど」
「店の半分以上の駄菓子買い占めようとしてどこが控え目?」


確かに昔は全部買い占めしようとしてたしその時と比べたらマシだけども、とおばちゃんはブツブツと物臭に言いながらも手はちゃんと僕の選んだ駄菓子を会計してくれる。これだからここの駄菓子屋は嫌いになれない。あ、きなこ棒の当たり出た。


「おばちゃーん、当たり出たからもう一箱おまけして?」
「そんなもう一本おまけして?みたいなノリで一箱丸々渡せるか!!あと素顔見せたって無駄だからね!!言っとくけどあたしゃ、阿○寛みたいな濃い顔が好みだから!!アンタみたいな不良息子お断りだよ!!」


うげぇ…ここにきておばちゃんの顔の好みとか知りたくなかった。盛大に顔を歪めると、おばちゃんが人の好みになんか文句でもあるのかいと額に青筋が立ったのが見えた。あ、これ以上は余計なこと言うのやめとこ。次来た時におまけどころか駄菓子が買えなくなる。

あ、そうそう。紹介するの忘れてた。ここは僕が高専時代からの通い詰めている駄菓子屋。ほとんど山といっても過言ではない高専の近くにあるにも関わらず、昔懐かしの駄菓子から目新しい駄菓子まで豊富に揃えている隠れた名店。週末にはたくさんの駄菓子ファンが訪れたりするとかないとか。

でもまあ、このおばちゃんの人柄に惹かれてくる人もいるんだろうね。なんせこの呪術界最強である僕をただの悪ガキみたいな扱いをしてくるんだから。だけど、そんな雑な扱いが酷く懐かしいものを感じさせた。


「(多分、アイツの扱いと似てるんだよなぁ…)」


僕の世話係だったアイツも『五条家の嫡男』『呪術界の神童』なんて肩書きなんて一切気にせず、僕をただの悪ガキみたいな扱いをしてきた。その扱いを見た家の奴らが何度も注意したけど、効果は全くなかった。むしろ扱いがどんどん雑になっていった気がする。

因みにアイツは幼い僕が賞金首になっていることを知った時、「え、賞金首?悟君、貴方グランドラインでも目指してるの?」とほざいてたな。何で賞金首だけでその解釈になったの。アイツの思考回路ホントどうなってんだ。

そんな懐かしさを思い出しながら、買い占めた駄菓子の入ったレジ袋を両手に持ち駄菓子屋から高専への帰路を歩いていると、背後から声を掛けられる。






「―――こんなところで何しているんだい、悟」






振り向くと、そこには、



「あれ、傑じゃん。オマエこそこんなところで何してんの」



相変わらず変な前髪をした親友の姿があった。


「私はこれを買いに行ってただけだよ」


ほら、とレジ袋いっぱいに入った小さな赤い箱を当たり前のように見せつけてくる。それを見た僕はまたしても顔を盛大に歪めた。


「……オマエ、よくそんなオッサンの脇みたいな酸っぱいの食えるよね」
「その酸っぱさがクセになるんだよ。悟も食べてみるかい」
「絶対ェなりたくねーしいらねーよ」


いつからだろう、傑が酢昆布マニアになったのは。思い出す限り俺と出会った当初はそんなことはなかったはずだ。そういや、前に傑になんで酢昆布を買うようになったのか聞いてみたことがあったな。あん時は確か、


「ああ、呪霊って吐瀉物を処理した雑巾みたいな味がするんだけど、この酢昆布はそれを打ち消してくれるんだ」


あ、とんでもない暴露をされたんだった。いつも平気そうな顔で呪霊を取り込んでたからその事実を知った時は流石に度肝冷やしたんだっけ。因みにそれを聞いた灰原はことある毎に、傑に酢昆布を献上してたな。つーか、後輩から酢昆布を贈られるってオマエ。

そんな親友の新たなる一面を思い出しながら傑と高専内の敷地を歩いていると、話は自然と悠仁について切り替わっていた。


「つーことで、悠仁は交流会まで修行させることにしたから。傑も手伝ってね」
「お前は私を何でも屋だと勘違いしてないかい?」


えー、そんなわけないじゃんと嘘丸出しの返事をすると、傑はため息をつく。あー、ため息つくと幸せが逃げるの知らないのー?ほら、吸った吸った!と煽ると傑が顔面目掛けて殴りかかってきた。まあ、無下限呪術でその拳は届かないんだけどね。あ、そうだ。顔面で思い出した。


「上の連中にサンドバックでも送りつけてやろうっと」
「悟……、それ昔やって夜蛾学長にこっ酷く怒られただろう」


まさか忘れたのかと言いたげに顔を歪める傑。いやあ、別に忘れたわけじゃないよ?あん時の学長、僕への説教ランキングの中でも飛び抜けてヤバかったしね。ついでに言うと、拳骨と絞め技も飛び抜けてヤバかった。でもさ、


「上の連中、全員殺すよりマシだろ」


僕が余憤を吐き捨てるように言い切ると、傑は何も言わずにこちらを見ていた。


「それにアイツに教わったからね」
「……それってもしかしなくとも悟の世話係のことかい?」
「ご名答」


語尾にハートがつく勢いで僕が答えると、傑は「あー、やっぱりー」と死んだ魚のような目をしていた。うわ、傑にこんな表情させるアイツすげェ。






******






「悟君、老害共を相手にするなら頭を使いなさい」


アイツとの話は基本他愛もない話が多かった。でも、よく突拍子もないことを僕に突然言ってくることがあった。あの時もそう。だけど、あの時のアイツは珍しく真剣な表情をしていたのでよく覚えている。


「いきなり何だよ。頭を使う?んなのいつも使ってるっつーの」
「私が言ってるのはスタンドを使ってる時の頭の使い方じゃないわ」
「だからスタンドじゃなくて術式だっつってんだろ」


相変わらず術式をスタンドと間違えてたけど、頭の使い方を伝授してきた。僕はてっきり戦略とか戦術の頭の使い方のことかと思ったんだけど、それは違った。


「要するに『ずる賢くなれ』ってことよ」
「ずる賢く、?」
「そうよ」


幼い僕がそのまま繰り返し述べると、アイツは頷いた。そして、僕の目を真っ直ぐ見据え、こう言葉を続けた。


「確かに、アンタのスタンド使いとしての実力は充分なのかもしれない。でも、組織の中で生きていくにはまだまだガキよ。そもそもアンタは生まれてまだ両手で数えられる程度でしょーが。どう足掻いてもゴキブリ並みの生命力で長生きしてる老害共の年や経験を追い抜く事は出来ないわ」


その言葉は悔しいけど正しかった。いくら実力や才能があっても年齢や経験は追い抜くことはできない。それは当時の僕には身に染みて感じたことだった。だから、アイツの言葉にぐうの音も出なかった。

でも、アイツはそんな俺を奮い立たせるかのように、



「―――なら、悪知恵の働くガキになりなさい」



凛とした声で、言い切った。



「利用されるんじゃない。利用するの。そして、生い先短い老害共を地獄に陥れてやりなさい」



続けて、そう言い切ったアイツの笑顔は何処ぞの不良よりも悪人面だった。








******








☆スナック嬢のせいで悪ガキになったGLG
駄菓子の存在はスナック嬢から教えてもらった。
最初は安価すぎるから味も大したもんじゃないと思っていたけど、食べてみたら見事に虜になった。
好きな駄菓子はきなこ棒。
ある日を境に酢昆布を大量摂取する親友を見て普通に心配した。


☆酢昆布のおかげで呪詛師にならなかった前髪
ちゃっかりGLGと同じく教師になった。
あと、双子の少女の養父になった。
呪霊の味は消えることはないけど、それを打ち消すほどの威力を持つ酢昆布にどハマりした。
さて、その酢昆布はどこで手に入れたのでしょう。


☆前髪に死んだ魚のような目を覚えさせたスナック嬢
教育方針にクレームが入ろうが全く気にしない。
呪術界の現状を知ってGLGに教えを講じた。
好きな駄菓子はうんまい棒。
そういやあの変な前髪君元気にしてるかな〜。







prev next
back