雨の日に捨て犬を拾うのは不良だけじゃない




突然だが、私は動物に好かれる体質を持っている。

どれだけ好かれるのかというと、あの定春が初対面でお腹を見せてくるレベル。え?定春が何って?定春は実家の二階に住んでいる住人が拾ってきた犬みたいな巨大宇宙生物のことよ。ほら、私の世界って天人(あまんと)っていう宇宙人がいるじゃない?それの動物版と思ってくれていいわ。

見た目は可愛くて身長170cmもある白い犬なんだけど、しょっちゅう飼い主や人の頭を噛む癖があるの。だから、散歩中とかよく通行人の頭かじって血まみれにしてたなぁ…。あと、犬なのに腹の中が物凄い黒かったわ。

あ、ごめん。話が逸れちゃった。つまり、私が何が言いたいのかと言うと、


「世界を跨いでも尚、この体質が健全だったのよね」


アハハと笑いながらその事実をカカシ君に伝えたところ、口布越しでも分かるほど彼の顔がひくりと引きつった。そして、ものすっっっごく長いため息を吐かれた。


「道理で一匹なら未だしも七匹も連れて帰ってきた訳だよ。そもそも七匹も居たら流石に気付くでしょ。お前どんだけ鈍いの。馬鹿でしょ。お前馬鹿でしょ」
「それが全く気付かなかったの。これでも気配とか敏感なはずなのに。あとカカシ君、さりげなくディスらないで。傷付くから」


君の言い分も分からなくもないが、その馬鹿呼ばわりはやめてほしい。カカシ君のディスりに地味に傷付いていると、一番大きいブルドッグっぽい子に頬をペロッと舐められた。え、もしかして慰めてくれてるの?やだこの子優しい。

何故、私がこの体質について語っているのかというと、私の周りにいる七匹の犬が原因。簡潔に話すと私が買い物帰りに連れて帰ってしまったのだ。

ほんとびっくりしたよ。家の前に辿り着いた瞬間、背後から気配がすると思って振り返ったらいろんな種類の七匹の犬が居たんだもん。え、どこの子ですか?ってなったもん。突然の出来事に唖然として硬直しているところに、カカシ君が帰宅してきた。

え、何この状況って顔されたんだけど、ごめん、私も理解できてないの。何とも言えない空気に耐え切れなくなった私達は状況確認をするべく家の中に入り、今に至るのだ。


「で、コイツらどうすんの。まさかウチで飼うとか言わないよね?」
「まさか!居候の身でそんな図々しいことしないわ。とりあえず、飼い主が見つかるまで面倒は見るつもりよ」
「家主の許可なく勝手に決めてる時点で図々しいからね」


ま、何となくそんな予感はしてたけど…、と呆れ顔で口布を外してお茶を啜るカカシ君に、さっすが!分かってる!伊達に短期間だけど一緒に過ごしてきただけあるわね!とテンション高めで褒めたらものすっっっごい冷めた目で見られた。あ、その目はやめて。本気で傷付くから。

思いがけない絶対零度の視線に傷心していると、次は糸目で頬に三本線の髭模様がある子が頬をペロッと舐めてきた。やだこの子も優しい。思わず抱きしめた。ついでに頬ずりもした。


「くすぐったいよ〜」
「……え?」


あれ?今、誰が喋ったの?今ここには私とカカシ君と犬達しかいないけど、目の前に座るカカシ君はお茶を飲んでたから話せない。というか、そもそもカカシ君の声じゃない。ということは、


「あら、貴方話せるの?」
「うん!」
「え、反応薄くない?」


声の主である犬に反応したら、カカシ君にもっと驚けよと言った表情をされた。いや、これでも驚いてる方なんだけどな。でも、元の世界で犬の顔面で人の身体をしている天人とかいたから、正直そんなに驚かなかったけどね。というか、話せるなら私について来た理由が聞けるじゃないか。早速、七匹の犬に理由を聞いてみると、


「とってもいい匂いがしたから!」
「コイツなら何かくれそうだなと思ったから」

「ねえ、これ好かれてるんじゃなくて舐められてるんじゃない?」
「そんな気がしてきたわ」


惜しくも、カカシ君の意見に同意してしまった。

これまで動物に好かれていると思っていたが、まさかの勘違いだっただと?え、じゃあ、定春もあんなにもお腹見せてきたのに、心の中じゃ嘲笑ってたとでもいうの?ものすごくショックなんですけど。

衝撃的な事実?に居間の端に三角座りして落ち込んでいると、カカシ君が何やら呟いた。


「コイツら、忍犬に向いてるかも」
「忍犬…?」


忍犬とは何ぞやと頭にクエスチョンマークを浮かべていると、忍犬とは文字の如く、忍者の任務補助のため訓練された犬だと説明してくれた。でも、説明されたものの、いまいちピンと来ない様子の私を見兼ねたカカシ君が「ま、見せた方が手っ取り早いか」とちゃぶ台を移動し始めた。

そして、物凄い速さで手と指を動かし、親指を噛み、少し血が出た。急な動作にギョッとしていると、カカシ君はこちらを気にせずに畳に向かって右手をかざす。


「−−−口寄せの術」


ボフンッと音と煙を立てて現れたのは、


「何じゃ、カカシ」


人の言葉を話すパグっぽいブサカワイイ犬でした。あ、犬なのにちゃんと木ノ葉の額当てしてるのね。って、あれ?このブサカワ何処かで見たことが……。あ、思い出した。


「もしかして、パックン?」
「ん?もしや、この匂い……」


あかり、か?と信じられないといった表情で私の匂いを嗅ぐのは、やっぱりサクモさんが飼っていたパックンだ。


「お主、本当にあかりなのか?」
「まあ、驚くのも無理はないよね。そうです、正真正銘の寺田あかりです」


何度も匂いを嗅ぎ確認するパックンを抱き上げ、目線を合わせて微笑む。ああ、そうだ、思い出した。サクモさんに強請りまくって初めて見せてくれた忍術、口寄せの術。あの時もこうして抱き上げて、自己紹介したな。まあ、あの時はパックンも子犬同然で主人以外に抱かれたことが嫌だったのか、自己紹介した後、思いっきり腕を噛まれたけど。

そんな思い出に浸っていると、パックンが目を細めながら「綺麗になったな…」と呟く。そして、次に放たれようとした言葉を理解した私は目を閉じて、それよりも先に言葉を放つ。


「何も言わなくていいわ」


パックンが目を見開いたのが分かった。きっと、言いたいこと、聞きたいことがお互いにたくさんあっただろう。それでも、今は、


「今は、こうして再会できたことを喜びましょ」
「……そうだな」


私の言葉にパックンは納得してくれたようだった。





「その様子からして、父さんの繋がりで二人は知り合いだったわけね」

「「あ」」


いっけね、完全にカカシ君の存在を忘れてた。だって、まさかこんなところでパックンに会えると思わなかったんだもん。ちょっとした感動の再会だったから許して。

カカシ君は目線ではお前らオレのこと忘れてたの許さないからなと言ってるものの、先に用件を伝えたかったのか、私の腕の中にいるパックンに話しかける。


「で、本題に入るけど、パックン。こいつら今日からオレの忍犬にしてもいい?」
「カカシがそうしたいならいいぞ」
「いや、軽っ!?」


え、そんな軽い感じで忍犬に任命していいの?なんかこう、試験的なものを受けて合格したら忍犬になるとかじゃないの?だってほら、今まで普通の犬だったのよ?いや、待てよ。普通の犬ってそもそも話すのか?え、もしかして、普通の犬じゃなかったの?

こうして、そんな私の思いとは裏腹に、私が拾ってきた七匹の犬−−−ウルシ、グルコ、シバ、アキノ、ウーヘイ、ビスケ、ブル。
そして、パックンを加えた後の八忍犬が誕生したのである。






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