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天に上る

「…長鼻を助けたとき??

貸しなんかあった?」


手を顎にあてて、悩む名前


「バカ!避けろ!

そいつは、お前が俺を助けたときに、お前が伸した海賊だ!!」





男の方に目もくれず悩む名前にウソップは腹の底から叫ぶ


目を丸くし、片方の手を軽く握り反対の手のひらをポンと打つ




「ああっ!あったあった!

思い出したよ!」




その声にも一切躊躇いなく振り下ろされた刀





しかし、名前はパッと掌を出し真っ直ぐ向かってくる刃先を正面から受け止めた

当然、刀は名前の手をもろとも真っ二つにするはずだった





が、悲鳴をあげたのは刀の柄を持っていたはずの男



「ぐあああーーっ」


男の手はかろうじて繋がっている、それほど見事に割けていた






「うわー、さすがに申し訳ないくらい痛そう」






ガチャンと刀が下に取り落とされた大きな音が響く

すでに男は痛みで声にもならない叫びで地面に踞っている



そして、軽く埃を払うかの如く、名前の振った手からは一滴の血も流れ出てはいない






***
**
*





何が起こったのか


確かに刀を振り下ろしたのは男の方で、刀を受け止めた名前ちゃんが何かした様子はなかった





いや、気付かなかっただけで何かしたには違いない

現に、彼処で血にまみれた奴が転がっているんだから






あれも、悪魔の力とか言う奴か?

あの可憐で華奢な容貌で想像もつかない




いや、美しさに秘めた強さ




「名前、お前なにしたんだ

なんで、お前が無事で、刀を振った男のほうがケガしてんだ?」



ルフィの問いに対しても、カラカラと軽い笑い声をあげるだけ

返答する素振りはない





「・・・でも、困ったな

どっちか買ったほうに手伝ってもらおうと思ってたのに、この様子だと黒男さんたちに手伝ってもらうのは無理かな・・」



名前ちゃんの独り言は少し離れた位置にいる俺にも聞こえている

彼女が望むならなんだって手伝ってやる






「名前ちゃ〜ん、何々?手伝ってほしいことがあるのかい?

水臭いじゃないかー、そんなの先に言ってくれれば、いつだって手伝ってあげるのに〜」



こちらを振り返り、見せた笑みに胸が熱くなる



「ありがとう、そうね

じゃあ、お願いしようかな」





「おい、てめぇら俺らのこと忘れてるんじゃないだろうな」


すっかり、眼中になかった烏の一味の男たちがいきり立ち、猛進してきた







が、復活したルフィの伸びた足に一掃される

ほんの一瞬の出来事だった


「ゴムゴムのムチ!!」




***
**
*



名前は山道をすいすいと歩く


動きにくそうな格好をしているとは思えないほどに





そうして、麦わらの一味は名前の後をついて行き着いた先は、大きな池だった




「わぁ!きれい!」


池の真ん中には一本の大木があり、デンデンの植物の一種なのだろう


樹からぶら下がる無数にある鈴なりの花はほのかな明かりを灯している





感嘆のため息を上げ、うっとりとその様子を眺めるナミとロビンに、サンジは歯の浮くような口説き文句を上げている


「二人と、こんな綺麗な景色が見れるなんて本望だ

だが、二人の美しさをあの明かりたちは引き立て役に過ぎないのだと、俺は気づかされた

あの、明かりに見とれている二人の表情、これこそ・・・」





ごみ虫を見るような目で、ゾロはサンジを眺めている

ウソップは、なるだけ目を細め、サンジを直視しないように見つめ、

ルフィと、チョッパーはそんな状況を知る由もなく、キャッキャとはしゃぎまわる





池の真ん中の大木は根の部分が水面につかり、よく見れば樹は少し傾き立っている





「・・・手伝ってほしいのは、あの木を切り倒してほしいの」


名前の言葉に全員が名前に目を向ける



「ちょっと待ってよ!ここの島の光る植物がどれだけ貴重なのかあんただって言ってたじゃない!

他の植物よりも大きなあの樹を切り倒すなんて、正気とは思えないわ!」



うっとりと樹を眺めていたナミは打って変わって名前に噛みつくように訴える



「貴重っていうのは、人間が欲して奪い合った、


ただそれだけのことよ

私には関係ない」



「たくさんの人が欲しがるからこそ、者には価値が生まれて、そして、より多くの人が求めるほどその価値は倍増するの


それを、関係ないの一言で切り倒すなんでありえない!

あんたの頼みは却下よ


サンジ君、ゾロ、ルフィ、聞いちゃだめだからね」



「んー、ってかお前、あれだけツエーんだから俺たちに頼むんじゃなくて、自分でやれば良いんじゃねぇか?」



腕を組んだルフィが大きく首をかしげる


「ふふ、それが出来たらやってる

それに、よく見てみなよ



あの木、昔はまっすぐに天に伸びていた

今は傾いて、灯もずっと弱くて小さい」




その場にいた全員が、木の頂の方に目を向ける



「もう、長くは持たない」



その名前の声には少し、憂いが込められていた



「でも、まだ光ってるじゃねぇか」



憤ったようなウソップの声音



「あの光、あれは悪魔の力…あの木が何百年も前に食べた悪魔の実の力」



名前は小さく、そして仕方なげに話し始めた



「悪魔の実?木がどうやって食べるんだ??」

当たり前に出る疑問、チョッパーが真っ先に問う



「木の、根元の水、あれは海水

悪魔の実の能力者なら分かるでしょ?

悪魔は海の力から嫌われている」



チョッパーの質問に答える気のない様子の名前だが、同じ質問を投げかけるものはこの場にいなかった

そして、名前が指さした、木の根元を浸す水に全員が視線を移動させる



「あの木は、悪魔の力はもうほとんど尽きた残りカスのようなもの

悪魔の実の能力者が死んでも死にきれない状態で海水に浸けられ続けてるのよ

不憫だと思わない?」




そう続けた名前の声には元の明るさ、悪戯な笑みが返り咲いている



「うおーっ、ぼれば、ぎる、ぎっでやる

ぞんなづらいべにいづばでぼ、かわいぞうだーー

おい!ナビっ、どめるなよーー」



だらだらと鼻声で喋っているルフィの言葉は名前には聞き取れるはずもない



だが、涙している様子から永遠に海水の中で死んでも死にきれない

そういった状況を想像したのだろう



そして、その場にいた全員は

「分かった分かった、切っていいわよ」


と頭を抱えるナミに視線を向けたあたり、通訳なしで、ルフィの言葉の意味を理解できたらしい




その言葉を受けて、ルフィは顔を手の甲でぬぐい、一つ大きく息を吐きだし、

「ゴムゴムの〜バスーカ!!」



島中に響き渡るような大きな地鳴り

何千年と島のシンボルとして在り続けた巨木がゆっくり傾いで、揺れる光を散らしながら


天高くそびえた、見えない頂が徐々にその姿を露わにし、遠く離れた大地に身を沈める




その光景は幻想的で、一同の目に焼き付けられた



地から放たれた無数の光はゆっくり天へと高く高く昇っていき、小さくなって消えていった




**********




名前が、悪魔になって間もないころ、たった一度だけ出会った



悪魔の実になる前の悪魔

全身から光を放ったような眩しい人



名は知らない

顔だけ見れば、初老と呼ぶには年の行き過ぎた男




「長く生きた、人としても悪魔としても

 これから先、みじめに生きながらえ続けるよりも、最後は華々しく散っていきたいなぁ

今まで見送ってきた、みんなに会いてぇな」



男の言葉が、記憶を呼び起こす



覚えておきな、悪魔の実に宿る悪魔の力が尽きる直前に

誰かの手によって葬られたときのみ、悪魔の魂は安らかに天に上る


ま、そんな迷信も信じてみるっていうのも悪くない



そういって、いたずらに目を細めて笑ったロキ

私は信じてみようと、信じてみたいと思った




それは、一体いつのことだったのか思い出せないくらい古い記憶

それでも、胸に沁みついたその言葉が、私を旅へと誘ってくれる




**********



「おいーっ、名前−っ、一緒に行こうぜぇ」



ふくれっ面で唇を突き出し、看板から港に立つ名前に再度勧誘をかけるルフィ




「……ま、気が向いたらね…」



今まで、一度だって仲間になるような素振りを見せなかった名前に、クルーたちは耳を疑った



「ほんとかーーーっ!じゃあ、すぐ乗れ!今行こう!今すぐ、気を向けよう!」


「今は気分じゃないし、やることもある

 また、どこかで次、出会ったとき…

 その時に、まだそっちの気が変わってなかったら、誘ってよ」



腕を組み、苦笑いを浮かべた名前



「おぅ、じゃあ約束だ」


するりと看板から腕が伸び、小指を突き出す


その小指に指を絡めた




そして、麦わらの一味を乗せた船は大海原へと出港する




さて、次に名前はどの船に乗るか思案する

いい奴らであれとほんの少し、淡い期待を抱いて





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[mokuji]




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