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私はアリス

 校長を抱えた月

 「私は、今まで間違っていた

  でももう、間違えないから

  この人の最後に、お側で・・・」




 まだ、ちらほらと残る火種のなか、暗闇へと身を委ね更に濃い闇へと歩いて消えていった




 そうして、月のアリスは効力を失ったのだろう




 その場に立ち尽くした学園の生徒たち

 次々と我に返ったように騒ぎ始める




 翼の全身の血糊に真っ先に気付いたのは櫻野だった




 「・・・ねぇ、安藤君が抱えているその子は

  ・・・名前ちゃん・・・かい?」



 「そんなことを問答してる時間なんてねぇことくらい分かるだろっ」




 棗の怒声

 その焦りを含んだ声が暗に名前であることを肯定していること

 櫻野は、眉間にシワを寄せる



 名前の記憶も戻った




 蜜柑の無効化のアリスなしで記憶が戻ったことは、名前のアリスの効力も弱まっているということ


 翼と棗の不安が掻き立てられる






 動揺する櫻野にも迷っている暇はない

 すぐにでも、名前を病院へと送り届けなければならない

 名前の重症さは、その出血量が物語っていて




 櫻野は、翼の肩に手を置く

 勢いよく二の腕を捕まれ振り向けば、棗が



 「俺も連れていけ」



 こくりと頷き、櫻野はテレポートのアリスを使った





***
**
*






 「ようやく、卒業やなぁ

  これで、年に一回と言わずじいちゃんとも蛍ともいつでも会えるな!」


 「私は、アメリカで働くんだからいつでもって訳にはいかないでしょ」




 「せやかて、学園に入ってった頃よりは自由きくやんかー

  ホンマに、蛍はいつも冷めてんなぁ」



 「蜜柑ちゃん、声大きいよ☆」



 蜜柑の声はよく響く

 特に卒業式の会場である体育館では



 その声を咎めたのは鳴海

 学園の卒業は、初等部、中等部、高等部と関係なく全ての教師が集う



 アリスは学園に閉じ込められ、期間は個人差があるものの、ほとんどの生徒たちは浦島太郎状態





 社会に羽ばたき出すのは不安が多く

 あんなに出たがっていた学園に後ろ髪を引かれるような思いに駈られる者も少なくない




 特殊な集団アリスは、その特異さに偏見、反発を受けることも多い






 蛍は順当に外国の研究機関

 蜜柑は意外にも警察に就職を決める





 初等部校長の一件でアリスを使った犯罪を抑えることのできる蜜柑の無効化のアリスが買われたと言える



 パーマも同じく警察に

 結局、二人は腐れ縁でこの頃は幼かった頃と比べていがみ合いも減っている






 棗は火のアリスを活かして、消防士

 能力の高さも抜群のコントロールも益々磨きをかけて




 3年前、彼らより先に学園を卒業した翼は学園に留まり、学園の教師になった

 持ち前の明るさ、コミュニケーション能力の高さが十分に活かされ今では生徒たちに随分と慕われている






 彼もまた、数年前に起こった事件以来、学園のあり方について、生徒たちの社会への参入について思うところがあったのだろう

 より一層、過ごしやすい子供を連れて親が逃げ回らなくても済むような

 そんな学園を目指して





 「よぅ、棗

  お前も遂に卒業かー

  学園出たら、馨さんにもよろしく伝えといてくれ」



 「・・ふんっ」


 鼻を鳴らした棗は、きっと伝言は伝えない





 「あ、それからお前

  学園の同窓会には必ず参加しろよ」


 「・・・」


 返事をしない棗、それでもきっとその時には必ず学園に現れるだろう






「あ、名前・・・」


 ルカは、少し低くなった声で翼の後ろを指差した

 柔らかく微笑んで

 その表情には恋人ではなく、一人の友人として






 その声を聞き、振り向いた翼と棗





 大人になった翼

 昔のように突然抱きついたり、おどけたりしない




 優しく、愛情溢れる笑顔を向ける

 仏頂面ではあるものの、棗の表情も心なし柔らかく





 「名前ー

  学部違ってからは、ほとんど会えへんかったから寂しかってんでー

  たまには、うちに会いに来てくれてもええのにー」


 「そんなこと言いながら、あんたから会いに行くという選択肢は無かったのね」

 「うっ」



 蜜柑と蛍のやり取りにクスリと笑う名前




 事件後、病院に強制収容され3カ月かかった

 リバウンドの後遺症である成長の遅れは、学園の治療によって徐々に解消され、今では皆と変わらない容姿を手に入れた






 記憶を消され、後からその事実を知らされたクラスメート達には実感が沸かない者も多い

 事件についても、その中心にいた者達以外には遠い世界で





 突然の初等部校長の後任が現れ戸惑いも大きかった





 ただ一つ、事件を実感せずにはいられない

 名前の首筋に深く刻まれた傷口

 そして、奪われた名前の声は、一時、学園内を賑わせた



 言霊のアリス




 声の無い名前にアリスは使えない

 名前の在学に異を唱えるものも多かった






 名前の周りの人の協力と名前の直筆の学園に留まりたいという気持ちの書かれた手紙

 その内容が名前を学園から追放するよう学園に求めていた生徒たちの心をうって、今日この日

 みんなと一緒に卒業式を迎えることができたのだ







 「お前も直ぐに帰ってくるんだよな」


 翼の問い掛けにコクりと微笑みながら名前は頷く



 「名前ちゃーん、写真とるよー

  蜜柑ちゃんも、蛍ちゃんも早くー」


 「名前!行こ!」

  名前の手を取り、走り出した蜜柑





 その後ろ姿を見ても、今は寂しさも不安も無く棗も翼も見守っていられる






 「…おいっ

  調子に乗るんじゃねえぞ」


 棗の低い声に、冷や汗を浮かべる翼




 名前は、卒業後、一度、母親の墓参りをして学園に戻って来る手筈

 永年の柵が解けて名前の選んだ道は、学園に入り孤独を感じる子供達に寄り添うこと





 声の無い名前が、アリスを使えない名前が学園に残るのは茨の道

 




 それでもきっと、名前は乗り越えられる

 翼と棗は止めなかった





 その道を決めたことを、教えてくれたときの名前の笑顔があまりに綺麗だったから

 二人はどんなことがあっても支えていくことを心に決めたのだ






***
**
*







 私は、苗字名前です。

 中にはご存知の方もいらっしゃるかとは思いますが、私は言霊のアリスです。




 私は私の勝手な都合で皆さんの記憶を操作しました。

 今、この場を借りて謝罪をさせていただきたいと存じます。




 そして訳あって、私には今、声がありません。

 アリスをつかえないアリスです。



 アリスを使えない私が学園にいることに不満や憤りなど様々な思いが皆さんにはあるかと思います。


 特殊な力を使って、世界に貢献する皆さんの中で特殊な力を使えない私がここにいることは間違いで、早々に学園を去るべきなのかもしれません。


 ですが、それでも私はここアリス学園に残りたい。

 皆と笑って、遊んで、勉強して

 一緒に卒業したいです。




 私のアリスは私の大好きな人から譲り受けたものです。

 その人は、もうこの世にはいない。

 それでも、その人から譲り受けたこのアリスは間違いなく、私のもので、私の誇りなんです。



 それに気づくのに何年もかかってしまいました。

 たとえ、私がもう二度とアリスを使うことができないとしても私はアリスです。

 アリスとして生きていくことをここに誓いたい。



 お願いします。

 私を皆さんと共にアリス学園を卒業させてください。
 




***
**
*






 お母さん、私、今日学園を卒業しました

 卒業しても、私、頑張るから



 ・・ずっと見守っていてね






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[mokuji]




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