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 握った手は白くて、冷たい


 そのあまりの冷たさに胸が押し潰されそうになる




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 「棗くん!壁の道具を!

  私のアリスを燃やして!」


 「名前!」



 鬼のような形相の校長先生に一瞬、竦み上がって

 それを察したかのように、躊躇うことなく棗くんの炎が燃え上がる





 「月ーー!

  何としても、火を消せ!」



 もはや、金切り声のような叫びにさすがの月も怯んで眼には、うっすらと涙が浮かんでいる






 名前は、ちらりと伽耶に目を向けた



 翼は目敏くその様子を見つけ、ぐっと名前の肩を掴んだ



 「最後のチャンスだ

  棗!!」



 大きく響いた翼の声を受け、棗は名前と伽耶の間に一切の邪魔が入らぬように炎で道を作った



 「ちゃんと、挨拶するって決めたんだろ」

 小さく微笑んだ翼に向けて、力強いうなずきを返して、名前は炎の道を駆け出した







***
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 緊張で胸が張り裂けそう



 闇に呑み込まれていくことを伺わせるような真っ黒で、大きなアザが顔にいくつも浮かび上がっている


 翼先輩に背中を押され、ようやく辿り着いた







 永くて短かった日々が脳裏を巡る







 母さん、あなたが死んでから私は一人になった

 そして、たくさんの仲間が友達ができたんです

 怒りっぽい人、ふざけてばかりの人、優しい人、笑った人、笑わせてくれる人、幸せにしてくれる人…






 私は、独りであることにとらわれて回りの優しさに気づくことができなかった





 それでも今は、手にした優しさを幸せを手放したくないから、手放さないために…




 ・・・母さん、あなたと別れます

 あなたに別れを告げます




 薄く開けられた瞳




 母さんは、昔のように笑みを私に向けた



 「名前、ありがとう

  今まで、ごめん

  よく、頑張ったね

  名前、幸せになって



 ・・・大好き・・・」






 「・・・母さん、ありがとう

  前を向いて、これからも皆と一緒に生きていきます

  私も・・・大好き・・大好きだよ、母さん

  ずっと、ずっと変わらないから」




 ひんやりとした手

 力なく床に垂れ下がる

 長い間、求めていた別れの時は、驚くほど呆気なく





 それでも、最後に母さんは大好きと言ってくれた

 母さんが母さんに戻ってくれた一瞬が私の永遠の支えになると思わずにはいられなかった





***
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*





 あいつが笑う

 穏やかに




 大好きな母親と別れる

 永遠に



 頬を伝う涙がキラキラと光って、なんとも言いがたいほど美しく見えた


 気が逸れたその一瞬


 戻れるなら、俺はその瞬間に戻りたい




***
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 「うわーーー!」

 動物のような叫び声に現実に引き戻された





 叫び声をあげる人物に目を向けると、燃え盛る壁い一角に向かって全速力で突っ込んで


 そんなことに同情して炎を弱めたりはしない





 それでも、人を積極的に殺したいわけではない

 だから、校長が飛び込んだ一角を除いて更に強いアリスを使い、より大きな火柱を巻き上げた



 巻き起こった火は視界を遮った





 ゴホッゴホッという翼の苦しそうな咳に、自分では感じなかった火の強さに気づかされた

 名前は無事か




 「棗っ、おまっ、火がつよ・・

  名前っ!!」



 翼の声に目を凝らせば、炎の向こう側に母親を胸に抱く名前の姿とその後ろに静かにたたずむ小さな人影

 すぐに分かる





 「触るなーー校長ー!」








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