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迎え

 疲れた顔をした今井昴が隣の部屋から顔を出す




 「先輩、名前は…」




 「命に別状はない

  ただ、アリスの使いすぎだ

  あの、リバウンドの症状が今後どうなるかは予想できん」





 つまり、過ぎだ2年は取り戻せないかもしれない




 胸がきしむ





 別れはほんの一瞬のようにも感じる

 気付けば、2年





 アリスとして、自分があいつに劣ってたとは思わない

 自分の立場でも、頼らなかっただろうか





 意地はある

 でも、名前には何度も助けられた

 心のどこかでやはり、頼りにしていたと思う






 今度こそはとギュッと目を瞑り、人のために自らを投げ出すことをいとわない小さなあいつを守ると心に誓う





***
**
*






 コンコンと廊下側の扉がノックされる




 真っ先に扉に向かっていったのは蜜柑





 「はーい、誰やろか」





 扉のノブに手を掛けた瞬間

 「開けんな!」


 棗の声が響いたと同時に押し入るように部屋に数人の高等部の制服を着た男たちが入り込んできて、蜜柑は後ろに倒れこみ尻餅をついた





 「名前を出してもらおうか」

 一番後ろから現れたのはペルソナ



 
 「ふざけんな!誰が渡すか!」

 尻餅をついたまま悪態をつく蜜柑に目もくれず、スタスタと名前の休む部屋へと向かっていく





 もちろん、誰一人として黙って名前を渡すつもりはない






 その精一杯の皆の威嚇に圧されるようすもなくニヤリと口許に笑みを浮かべるペルソナに一同の苛立ちはいっそう強くなる





 これ以上、名前のいる部屋には近付けまいと棗が正面に立ちふさがり、一瞬の隙をついて翼がペルソナの影を踏んだ





 形勢逆転かと思いきや、

 「やれ」

 ペルソナの一言で、それまで黙って入り口付近に突っ立っていた男子生徒が一斉にアリスを発動させる




 学園内でも見たことのないようなアリスまで多種多様に




 棗はためらうことなく、火をつけた





 燃え上がる炎を前に息を飲む

 棗のやりすぎとも思える炎は、一部の生徒たちに悲鳴をあげさせた





 しかし、その一部を除く生徒は炎の中にいることを意にも介していない

 手や足が熱さで焼けただれても、アリスを発動し続けている
 



 人の形をした人じゃないもの

 他に表現のしようがなかった




 悲鳴をあげ床に突っ伏した者達の背中の火はすでに、棗のアリスで消されているが痛みに体を動かすことができないようだった




 動き続ける姿よりも痛みで動けなくなり踞っている姿の方が人間らしい

 こんな滑稽な話はあるだろうか




 燃やされ続けた人は遂に、手足の機能が失われ崩れるように倒れこんでいく




 「棗、躊躇いも戸惑いもなく人を殺すとは」

 部屋中を包む異臭の中、薄ら笑いを浮かべているペルソナを見て胃の中身が溢れるように出てくるルカ




 「・・・ルカ、こいつらはもともと死体だ」

 青ざめた殿が小さく声をかける




 「これ以上、名前のアリスを悪用させたらあかん」

 瞳一杯に涙を浮かべて蜜柑は言う




 ガチャリと棗のすぐ後ろのドアが開き、名前が顔を出した




 大きな瞳を揺らして、今にも崩れ落ちそうになる名前

 その肩をぎゅうっと力強く抱き寄せ、背後へと棗は後ろ手に隠す





 その背にそっと頭をもたせかけた名前の声は小さくて、今にも消えそうだったが強く棗の胸をうった


 「もう、戻りたくない

 ここに、皆と一緒に・・・いたい・・・」



 「大切なものは何か考えろ、名前」



  聞こえたのか、聞こえていないのかペルソナがゆっくり諭すように



 「母親に会いたいのだろう?

  ここに残っては、それは叶わなくなる

  私の、校長の元へ戻れ」





 その話し方は、名前が戻ることを確信したような話し方


 気付けば痛みにもがいていた男子学生達の傷は癒され、ペルソナ周辺へと集まり、唯一の廊下への出口のドアを塞いでいる




 「お前らのところに行ったからといって本当に会えるとは限らねぇ

  そんな不確かなことのために、こいつをもう一度闇に突き落としたりしねぇよ」




 「母親は俺らの手で探す

  名前にもう二度と近付くな」

 翼の言葉は、決意に満ちていて名前の決心をつけるのに十分だった




 肩にのせられた暖かな手をゆっくりと下ろした




 名前は揺るぐことのない声で


 「床を掴めるハンカチのアリス"」

 フワリと床に落とされたハンカチを上から床ごと掴み上げる名前の姿にかつての名前の姿が重なる




 床はペルソナとその周囲にいた男子学生達の足下だけがうねりを伴い波打った

 当然、そんな地面でバランスを保つことなどできず皆が派手に跳ね上がって床に叩きつけられた




 かなりの人数に苦戦を強いられると考えていた殿は笑いを漏らす

 「はっ、ははっ

  そうこなくっちゃな!行くぞ!」





 廊下へと続くドアを蹴破って、部屋を飛び出した

 柔らかく笑う名前を連れて





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