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流れた時間



 目の前で安らかに寝息をたてて眠る姿







 俺は、ほんの数時間前まで名前のことをすっかり忘れていて、それでも、結構たのしい時間を名前がいない間も送っていたと思う

 それでも、名前の姿を見ているとずっとずっと会いたかった、こうして会える日をずっと長い間待ち続けていたような気になってしまう







 本当に、俺は都合のいい生き物だと内心で苦笑いし、かぶっていた帽子をさらにぐいっと目深にかぶりなおす


 蜜柑と蛍姐さんには事情を話して、今晩は寮へと帰ってもらうことになった






 部屋には、俺と棗、ルカ、殿






 男ばかりのせいか、会話もなく時間だけが刻々と過ぎていく





 「・・う〜ん」

 ゆっくりと長い睫毛を瞬かせ開かれた瞳






 ぐるりと一人一人の顔を眺め、細い腕で体を支えながらゆっくりと上体を起こす







 「・・ここにきて、アリスの効果が切れるとは思わなかった」

 半ばあきらめたように呟いた声が静まり返った部屋の中でやけに大きく響いたように感じた





 がぁーんっ


 椅子を倒して勢いよく名前につかみかかった棗を見て全員が息を呑む






 「ってめぇっ

  自分がなにしたか分かってんのかっ

  何で、誰に何の相談もなくこんな、勝手な真似しやがった!!」




 キッと睨み返しながら名前も負けじと言い返す





 「私には、私のやり方があるっ

  皆には関係ない!!口を挟まないで!」


 「ふざけんな!どれだけ、心配かけたと思って」

 「心配なんていらない!皆に心配されなきゃならない程、私はヤワじゃない!」





 パンと乾いた音が部屋に響く





 気づけばじんじんと痛む自分の右手

 目の前には左頬を手で覆い俯く名前がいた

 それを驚いたように眼を見開いた棗とうろたえた様子のルカ






 いつも、名前とは一緒にいたくて、もっともっと仲良くなりたいと思って、笑顔でいるように心がけていた






 こんな風に手をあげるなんて初めての出来事で、なぜ手をあげてしまったのか分からず戸惑う






 「・・名前、今のはお前が悪い

  言い過ぎだ・・」


 それまで、ずっと後ろで黙り込んでいた殿が口を開く






 ・・俺は、記憶を勝手に消した名前に腹をたてているのか・・?







 「・・苗字程のアリスがあれば、何でもできるのかもしれない

  でも、ちゃんと俺たちに相談してくれていたら、こんなことになる前にもっといいアイデアだって出たかもしれない」


 ギュッと拳を握りしめ、振り絞るように話すルカ






 ・・俺は相談されなかったことが許せないでいるのか・・?






 「・・名前、皆に迷惑を掛けたくない気持ちは分からなくもないが、心配をかけたお前のやり方は間違ってるよ」





 ・・心配を掛けられたことが我慢できない・・?






 「・・迷惑とか、心配とかそんな綺麗ごとで皆の記憶を消したわけじゃない・・

  ・・・邪魔なの、こんな体になっても、皆とのつながりを切らなきゃならないと思うほどに

  ・・私に、後悔はない」





 あぁ、そうだ

 名前が俺たちを本気で邪魔だと、そう考えていることを感じさせる態度に苛立って

 いや、悲しかったんだ





 ずっと三つ編みに結わえていた髪は、更に長くなり下ろしているせいで腰のあたりで毛先がふわふわと揺れている




 俺たちと別れてから、ほとんど日に当たることは無かったのだろう

 石膏のように白くなった肌





 こんな変化とは裏腹に全く伸びていない背丈、ほっそりとした少女の体つき、大きな瞳のあどけない顔つきがこの2年間、名前の成長がすっかり止まってしまっていた事実を俺にたたきつける



 


 棗もルカも、2年の時をかけて成長期に入りグンと身長は伸びた

 顔だって、より大人の様相へと変化している






 とても同じ年には見えない名前と棗の言い合う姿が俺の胸にぽっかりと穴をあけた







 「・・・俺だって、お前のために心配してるんじゃない

  本当は、心配なんかせずにすめば、どれだけ楽ちんか・・

  いつも、笑っていてほしいから、何かをじっと我慢している素振りを見せられると気になっちまう




  心配されたくないって、そう思うなら、もっといつも幸せそうに笑っていてくれよ」






 小さな身体は、ぎゅっと抱きしめると小さく震えていた






 「・・たったそれだけの理由で、人が苦労して掛けたアリスうち破って・・

  追いかけてきたりして・・・

  ・・・ぐすっ・・・みんな大嫌い・・・」




 がしっ、と大きな手が頭を掴んだ感触





 「あいだだだだっ、握んな握んな」

 真っ赤な燃えるような瞳で睨みを利かされる



 「てめぇが勝手なことをやるってんなら、こっちだって好きなようにやる

  文句は言わせねぇ!」




 静かに、それでも強い口調で放たれた言葉




 名前に言い返す余地はなかった





***
**
*




 疲れていたのだろうか




 すやすやと安らかに眠っている名前






 「なぁ、殿ー」

 「あぁ?」

 「俺、思うんだけどさ

  昔、名前って大人びてるなぁって小学生とは思えないって思ってたの、あれ、勘違いだわ」





 「・・今更なんの話だよ」


 「・・表情や態度に出さない名前は、格好がいい、すごく強い子なんだって思ってた

  でも、違った

  顔には出てなくても、いつだって名前は全身でSOSを出し続けてたんだって今頃になって気付いた」





 昔のことを思い返してみる






 「名前って聞けばさぁ、大抵のことははぐらかしたり嘘ついたりせずに答えてくれたんだ

  名前が大変なものを背負ってるのは気づいてた

  それでも、踏み込めなかったのは俺に勇気がなかったからだ」






 ずっと自分の頭の片隅にあったこと

 でも、気づいていたけど気づかないふりをし続けてたこと

 言葉にして口に出すと、不覚にも殿の前で涙が出た






 「・・ふぅ〜ん、お前も成長したねぇ

  でも、名前は見た目だけじゃなくて、中身も成長してないのかもな」




 殿は、ゆっくりと名前の寝ている方へと目を向ける




 「・・殿、俺はもう間違わないよ

  名前は、時間はかかったけど帰ってきたんだ

  次は、臆したりしない

  こんなに、しんどい想いはもうしたくないから」




 「・・あぁ」






 小さな少女に与えられた強すぎる力の言霊は、少女から助けての言葉と少女を愛する周囲の者たちから大丈夫?の言葉を奪い取ったのだ


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