RPG
文化祭が始まった
日向君は結局、直前まで入院生活を続けたため、文化祭の出し物の準備は何もできず、今回は回る側のみで参加することになったと心読み君が教えてくれた
・・うらやましい
私は退院後、佐倉さんに連行され特力のアラジンと魔法のランプ"に強制参加させられる羽目に・・
「名前も蜜柑もよーく似合ってるぞ〜」
「みさき先輩もキレかわい〜」
と、テンションの上がっている特力の女性陣と自分の衣装を見下ろしため息をつく名前
「おまえら〜 準備ができたんなら、広報の手伝いしろよな〜」
無粋にズカズカと女子の控室に翼が入ってくる
名前を見ると真っ赤になって一瞬固まったのち
「かわいぃじゃねぇか〜〜!!」
と真正面から抱き付こうとするも
私だけが通り抜けられる壁のアリス"を発動し、名前は壁の向こうへと消え去る
必然、翼はガスっと壁に顔面から突っ込み後ろにひっくり返る
壁の向こうから再び顔だけ覗かせた名前はふぅっと1つため息をつく
「・・翼先輩はちっとも変わらない・・」
毎度のことながらその様子を、ニヤニヤと見守る特力クラス一同
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体質系クラスから最も近い特力クラスのRPGへ成り行きで来ることになってしまった
ここには、あまり来たくなかった
あいつがいるから・・・
「蜜柑ちゃん、名前ちゃんと一緒じゃないの?☆」
「名前は今、ビラ配りに出とるよ
名前のランプの精の姿も、むっちゃかわいいんやで!」
ほっとしたような、少し残念なような・・複雑な気持ち
ゲームが終わったらすぐに帰ろうという目論見は、あっけなく崩れ去った
正田に引きずられて、特力のビラ配りを一緒に手伝わされる羽目になったのだ
***
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棗のお見舞いに行った
5日ぶりに棗が目を覚ました
久しぶりに見た赤い瞳を揺らしながら苗字のことを聞いてきた
無事を伝えると心底ほっとした顔の後やさしく笑って
「よかった・・」
聞かせるつもりはなかったんだと思う
それくらい、小さく、ふっと漏れ出た言葉
その時、あー、きっと棗は苗字のこと・・・
「・・やめとく」
すでに退院していた苗字に棗のお見舞いに来ないか声をかけた
「・・もともと仲がいいわけじゃないし
無事を聞けただけで十分・・ありがとう・・」
ふわっと微笑んだ苗字に目を奪われながら、棗に幸せになってもらいたい、誰よりも・・
俺の気持ちで何かが変わるわけじゃないかもしれない・・
それでも、今、引き返せば辛い思いはしなくて済む
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「ひぎゃぁぁぁ〜〜〜っ!!!!」
特力クラスのRPG会場いっぱいに響き渡る蜜柑の叫び声
「づ、づばざせんぱ〜い!!!」
「お、おぉぅっ!げほっ!ど、どうした蜜柑」
蜜柑に飛びつかれて、せき込む翼
「よーし、よし、分かったから
もう泣くな〜」
翼が蜜柑を慰めているとRPG会場のスタッフ出入り口から、2つ折りにしたビラを両手いっぱいに抱えた名前が出てきた
そのまま、名前はスッと両腕を前に突き出し、アリスを唱える
途端、ビラはまるで鳥のように羽ばたき飛び立っていく
まるで、時間が止まったように皆がその様を見つめている
「名前〜〜!!
びっくりしたーー、名前まで一緒に飛んで行っちまうかと思ったーー」
赤い瞳が、2人をにらみつけ、青い瞳が寂しそうに見つめている
「・・翼先輩、意味が分かりません、抱き付かないで、痛い・・」
飛んで行ったはずのビラのうち数枚が戻ってくる
「いてっ、いて、いてぇよ
名前ー、どうなってんだよー」
「私が、心を籠めて1枚1枚丁寧に折りましたから
私の敵は、この子達の敵・・」
「て、敵!?名前ちゃーん、こいつらを止めてくれ〜」
「離して・・」
「・・はい・・・」
名前も一緒に飛んで行っちまうかと思った・・
それほどに、この時の名前はか細く儚げに皆の目には映った
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[mokuji]
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