PM | ナノ



 


ぽわり、小さな光が浮かぶ。一つ、また一つと世界が生まれていく。それと同時に一つ、また一つと世界が死んでいく。このループは決して止まることなどは無くて。


「おはよう」


生まれた世界。


「おやすみ」


死んだ世界。





小さな少年はたった独りで黙々と世界の流れと生死を見続ける。その姿には誰も気付かない、気付けない。
そんな少年の目の前で、黒ずんだガラス玉のような何かがぽわりと光を放つ。少年は目を細め、両手でそのガラス玉を隠すように包み込んだ。何をするのかと思えば、両手で包み隠した光をごくり、と飲み込む。手の中には光はおろか、ガラス玉すらも無くなっていた。


「おやすみ」


ぽつりと小さく呟いて胃の辺りを優しく撫でる。暫く撫でているだけだった少年が、突然胸を押さえて悶えだした。苦しそうに呻き声を上げながらその場に倒れこむ。息が出来ないのか、「ぜえ、ぜえ」と小さく声が漏れていた。


「…っ……お、はよ…う……」


一言、少年がそう呟くと、少年の手が押さえていた辺りからぽわりと光が一つ、浮き出てきた。徐々に放つ光が弱くなり次第に一つの新たなガラス玉へと姿を変える。紺と青のコントラストがとても綺麗なガラス玉。


「…お前は、綺麗だ」


少年が嬉しそうに顔を綻ばせて、つんと指先でガラス玉を突いた。ふわふわと浮かぶそれは幾多のガラス玉が並ぶ所へと流れて行く。


「世界は俺が、作ってるんだなあ」


しみじみ。誰に言うでもなくただ紡がれただけの言葉は足元に落ちて溶けたのか、上へと飛んで消えたのか、それとも空中でかき消えたのか。
気にする暇も無くぽわり、また黒ずんだガラス玉から光を放つ。またか、と少年は手を伸ばすが、その手が届く前にかしゃんと軽い音を立ててガラス玉は足元に落ちて割れた。


「あ」


割れたガラス玉は光を無くした。
ほぼ真っ二つになったそれを少年はただじっと見つめて、また手を伸ばす。今度はちゃんとガラス玉をその手に取って、ごくりと割れた全部を飲み込んだ。


「ちゃんと、おやすみ」


少し眉間に皺を寄せながらも口元には笑みを浮かべてぽん、と胃を撫でる。だが今度はいつまで経っても新しい光が生まれない。不思議そうな顔をしながら少年は首を傾げた。
…手遅れだったのかな。
先程までは嬉しそうだった顔は次第に、悲しそうな顔へと変わる。ぽろりと涙がこぼれた。


「ごめ…ん、ね…」


ぽたり、ぽたりと涙と一緒に空の無いこの空間に雨が降る。その雨は色とりどりのガラス玉を青色へと変えていった。そして青から黒く濁り、かしゃん、かしゃんと次々地に墜ちる。割れる。
雨が止んだ頃には漂っていたガラス玉が全て、濁り、割れていた。

少年はおもむろに割れたガラス玉を一つ、丁寧に両手で掬い上げると素早く飲み込む。少し間をおいてから、次のガラス玉を掬っては飲み、掬っては飲み。落ちたガラス玉をどんどんその小さな体に収めていった。


「さいご」


黒いガラスの破片が散らばっていたその空間は、いつの間にか綺麗になっていた。最後の一つを少年は掬い上げて飲み込む。その瞬間、突然ふらりふらりと足元が覚束ない足取りで歩き始めた少年が壁に寄りかかると、何かが少年の体を搦めとって磔にしてしまった。
少年は、薄らと僅かに開いた瞼の隙間から、誰かの姿を見ていた。自分と似た様な、服を着ている、気がする。


「……だ…、れ…?」


誰かは答えない。だが、近付いてきている。少年はその様子を見て、一つの安心感を覚えた。不思議な事に怖さや敵意を感じない、それどころか落ち着く。ずるずると意識は引きずられるかのように沈んでいく。
意識が完全になくなるその前に、誰かは少年のマフラーを取ると自身の首に巻いた。ふわりと頭を温かい手が撫でてくれる。


「そ、…か……おや、す…み………」


少年は目を閉じて、意識を完全に沈めた。もう二度と、目を覚ます事はない。一つの世界が、人柱としてここで永遠の眠りについた。そして人柱を守るために新たなもう一つの世界が目を覚ます。


「……おはよう、俺」







(…離れてしまったし、名前が欲しいな)
(そうだ、いつか、誰かに世界さんって呼ばれたいな)
(ここは俺にしか創れなくて、俺にしか守れない世界だから)








――――――――――*
世界さんはいつどこでどうやって生まれたか、という話。

これは数ある中の一つの道でしかない。
きっと今でも“MZD”としてどこかで世界を見ているのかもしれない。
はたまたガラスと一緒に砕けていたかもしれない。

その道を選ぶのは原理。


とかなんちゃって。とりあえず今の世界さんはこんなに可愛くない。

読んで頂き有難う御座いました。


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