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生きる癖

 


頭が痛い。

立っているだけなのに、視界はぐらぐらと揺れている。

帰りたい。

と言うか、今回は絶対来る気は無かった。



「あのヤロー…」



行かない、と言ったのに強制的に連れてこられた。

そもそも俺は職業柄、人混みと言うのが嫌いだ。

一度、いい音を出すとかで無理矢理引っ張り出されたが、あれっきりだと思っていれば。

その次も、そのまた次も連れてこられた。

今回も例外ではなく無理矢理出席させられている。

ワイワイと賑やかなパーティーの隅っこで壁に寄りかかりながらその賑やかな様子を眺めていた。

帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。

頭を抱えながらブツブツと文句を言っていると、司会者の二人が話しかけてきた。



「「ハロー!ミスターケーケー!」」

「…よぉ、司会者」

「む、余所余所しい!やり直し!」

「激しく同意!やり直し!」

「は?」

「あたしにはちゃんと『ニャミ』って可愛い名前があるんですよKKさん!」

「そうそう!あたしにも『ミミ』って可愛い名前があるんですよKKさん!」

「あーはいはい、ニャミとミミな」

「うわー絶対めんどくせーとか思ってるよこの人ー」

「あれ?KKさん元気無いね、パーティー楽しくない?」



猫耳と兎耳の娘っ子達の元気さは、今の俺にとって頭痛を悪化させるものでしかなかった。

いやまぁ、本人達には大変悪いんだけど。

とりあえず悟られないように、と思っていたのに早速バレてしまった。



「いや、パーティーは楽しんでるよ一応な」

「じゃあ何でこんな隅っこに居るの?」

「あー…人酔いしたんだよ」

「「うっそだー!」」

「待て、何でそこでハモるんだ」

「むしろKKさんなら女の人の所に飛んでいきそうなのに!」

「そういうニャミちゃんはタイマーの所に飛んでいくよね」

「ちょっ、何故それを今ここで?!」



俺はどれだけ女好きに見えているのだろうか。

まぁ、それなり、っていうか普通の男程度には気になるけど。

彼女も欲しいとか思っちゃうけど。

でもこんな仕事してるからには作っても無意味で。

いやそんな話はこの際、投げ捨てて。

そんな事よりも頭痛が更に悪化している。

何故ここまで頭が痛いのか。

別に風邪でも無いし、だからって偏頭痛持ってる訳でもない。

原因が分からない。

どうしたもんか、と目の前に小娘が二人居る事を忘れて、頭を押さえながら眉間にしわを寄せた。

すると案の定、猫耳娘にツッコミを入れられた。



「…もしかしてKKさん風邪とか?」

「頭痛いんだ、実は偏頭痛?」

「二人して俺が否定した病名言うんじゃねぇよ」

「「違うのかーそっかー」」

「わざとらしいぞ」

「でも体調悪いなら何で言わなかったのー!」

「そうだよ!どうせ神が無理矢理連れてきたんでしょ?」

「当たり」

「じゃあ尚更だって!帰らなきゃ!」

「あ、じゃああたしは神に言ってくるよ」



今にも走り出しそうな二人の腕を思わず掴む。

いきなり腕を掴まれたことに二人は驚いているが、この行動に一番驚いているのは俺だったりする。

今すぐ神を呼んでもらってとっとと帰るのも手だが、アイツの事だ、その場で勝手に治して「これでOK!さぁ楽しめ!」とか言ってきそうな気がした。

何してんだ、俺は…。

悶々と考え込んでいるとずっと掴んだままだったらしく、二人が俺を心配そうに見ていた。

いつ見ても、その目にその顔に慣れない。



「KKさん?」

「大丈夫?」

「…あ、悪ぃ、大丈夫だ」



しまった、と思いつつ手を離す。

何を、してるんだ、本当に。

無意識とはいえ腕を掴んだ事に戸惑っているのか。

違う。

この手で、この人の命を消してきた手で、触れた事に怒ってるんだ。

やっぱりこんな場所は、俺には似合わない。

大人しく帰ろう。



「本当に大丈夫なの?」

「あたし達に出来る事があるなら何でもするからさ!」

「…大丈夫だっつってんだろっ」

「「ぁ痛っ!」」



辛気臭い顔をした二人を見て、思いっきりデコピンをした。

いきなりの事に何の防御も出来なかった二人はモロ食らったらしく、額を押さえてうずくまっている。

その姿が何だか笑えてきた。



「…ぷっ」

「い…たぁーい!何するのさKKさん!」

「ホントだよ!しかも笑ってるし!」

「いや、すまん、つい…ははは」



笑えば頭もガンガンと痛む、がどうも笑いが止まってくれない。

久々にちゃんと笑った気がする。

最後に笑ったのはいつだったっけな。

覚えてない。

何故だか分からないが、とても楽しい。



「ははははははっ」

「もー!そろそろ笑うのやめてよー!」

「そうだよKKさんー!痛かったんだからー!」

「はははは…はは、はぁ、笑った笑った、悪いな」

「「ホントにね!」」



一通り笑った後、軽く謝るも二人はプンスカと怒っていた。

そんな二人を宥めつつ、心のどこかで俺が言っている。

このやり取りそのものが酷い偽善だ。

俺には、こんな他愛もないやり取りさえ、認められなくなっていたのか。

顔には出さずにぼんやり考えながら話していると、目の前に水色。



「よぉ」

「あ、六だーやっほー」

「楽しんでる?」

「あぁ、毎回毎回、よくこんな大きい祭りが出来るもんだ」

「一応神様だしねー」

「一応ねー」

「それもそうだ…で、お前は何をしてるんだ?」

「…いや、別に何も」



鋭い視線が俺に向けられる。

つい3回ほど前のパーティーで知り合ったそいつは、毎回このパーティーに出ているらしかった。

何だかんだで毎回連れてこられている俺に何故か話しかけてくる不思議な男だ。

いい加減慣れるべきなのだろうが、依然として気が抜けない。

この男、六は傍から見ても強そうな奴だと分かる。

普段からの癖でもしかしたら、と考えてしまうのだ。

もう4回目にもなるんだがいつ会っても警戒してしまう。

どうしたもんか。

自分で自分に呆れつつも平静を装う。

が、六にはほぼ無意味らしかった。



「…ミミ、ニャミ」

「「はいはーい?」」

「こいつ、どこか体調が悪いんじゃないのか?」

「あっ、六ってば凄い」

「よく分かるね!」

「ちょ、お前ら…!」



あっけなくバレた上に小娘共はそれを言う気で居るようだ。

酷く困る。

何故か。

それはこいつが何事にも容赦が無いからである。

病人でも怪我人でもやる時はやってくる奴だ。

何をされるか分かったもんじゃない。

必死で止めようとするも、時既に遅しだった。



「あのねーKKさん頭が痛いらしくて」

「だから言うなって!」

「ちょ、KKさ…って六!?」

「も、もがっもがもが、もがっ!?(何これどういう状況!?」



勢いで兎耳娘の口を手で塞ぐと同時に首筋には刀。

若干殺気を含んだ六の目は、今すぐその手を離せ、と言っているように見えた。

流石にまだ斬られたくはないし、死にたくもないので大人しく離す。

開放された兎耳娘はげほげほ、と咳き込んでいる。



「び、びっくりしたー」

「大丈夫?ミミちゃん」

「一応大丈夫ー…でもKKさん、そんなに言われたくないの?」

「当たり前だろ…」

「えーなんで?」

「そうそうなんで?」

「…こいつが何するか分かったもんじゃねぇからだよ」



現にこうなっている訳だし。

未だに鞘へと収められる事の無い刀は、徐々に俺の首筋に近づいている。

この状況を何故周りのやつらは気にも留めないのだろうか。

何て考えていると、また一段と面倒な奴が六の後ろに現れる。

と、同時に刀は一瞬にして奴の眼前に向けられていた。



「よーっ?!」

「…何だ、バ神か、驚かせるな」

「え?俺には驚いてるように見えないんだけど?」

「「MZDやっほー」」

「おーす名司会者」

「………」

「あれ、約一名すっごく嫌そうな顔してる」



現れた俺にとってのトラブルメーカーはへらへらと笑いながらこっちに来た。

来んな、帰れ、いやむしろ帰らせろ。

と本気で思った俺は悪くない。



「まぁいい、MZD丁度いいところに来た」

「え?」

「こいつが頭痛らしいんだが」

「…早く言えよ!」

「最初に言ったわ!」



一応行かない理由にちゃんと頭が痛いと言ったのだ。

それを聞いていなかったのかこいつ。

ブン殴りてぇ。

どうやっていつ殴ろうか、なんて物騒な事を考えているといきなり帽子がMZDの手で盗られる。



「…っ、てめ、返せ」

「やっだよー、ミミかニャミか、どっちでもいいからちょっと熱測ってやってくんね?」

「え?神がやればいいのに」

「そうだよ、神がやればいいのに」

「何が楽しくておっさんの熱測らなきゃいけねぇんだよ」

「黙れクソガキ」

「脈が少し早いぞ」

「?!」

「六速ーい」

「うーんじゃあ仕方ない、このミミちゃんがやってあげよう」

「わーミミちゃんおっとこまえー!」

「え?なにこれイジメ?おじさん泣いていい?」



何となくだが扱いが酷いのは分かった。

そんな訳で兎耳娘が俺の額に手を当てる、と。



「あっつぅ!ちょ、KKさん完璧熱あるって!」

「え、マジで?!」

「実はいんふるえんざとかいう奴じゃないのか?」

「六、それまだ季節じゃねぇぞ?」

「つーかインフルなら来たりしねーよ」

「それもそうだな」



どうやら風邪らしい。

いや、風邪かどうかは定かではないが熱があるのだから多分風邪だろう。

勝手に自己完結してこれからどうするか薄らぼんやり考えてみた。

歩いて帰る…無理、倒れる。

開き直る…これも無理、倒れる。

送ってもらう…誰に?

とりあえず病院…金ねーよ。

さて、選択肢がない。

うーん、と唸っていると心配そうな声。



「KKさん、やっぱり無理せず休んだ方がいいってば」

「そうそう、無理しちゃ楽しい事も楽しくないよ!」

「と言うか風邪なら寝てろ、少しは体を労われ」



…俺の耳は慣れそうもない。

心配されるのは嬉しい、でも本心では多分それすら疑っている。

俺はどこまで疑えば気が済むのだろう。

とりあえず笑ってみた。



「じゃ、今回は帰らせてもらいてぇんだけど、神様?」

「分ぁってるよ、でもお前、家に帰ってちゃんと寝てられんのか?」

「…自信はねぇな」

「兄が居たんじゃないのか」

「あー…このままKKを帰したら多分死ぬな」

「え?KKさんのお兄さんって家事出来ないの?」

「あ、もしかして家事をしたら火事にーとか」

「ニャミちゃん、それ面白くないよ」

「いや合ってるけどよ」

「「嘘っ!?」」



そういえば家にはAKが居るんだった。

あいつ何もできねぇし寝てはいられないだろう。

まぁ、何とかなる、と楽観的に考えていると何やら4人が会議している。



「ね、MZDの家に泊めてあげられないの?」

「は?俺の家?」

「あ、それいい!泊めてあげなよMZD」

「泊めてやれ」

「いや別にいいけど、って六、刀チラつかせるのやめて!」



今の話を聞いていた限りじゃ、MZDの家に連行されるみたいなんだが。

一体どう言う事だ?



「つー訳だ!お前、俺んちに強制連行な」

「どうしてそうなった」

「満場一致だ」

「俺そっちのけで話進めてんじゃねぇよ」



まさか、あいつ一人家に残して養生しろと言う事か。

それはやめろ、ていうかやめてほしい。

家に帰ったら家が無いとか言うオチになりそうで怖い。



「治るまで俺んち軟禁、お前の兄も俺んち呼ぶから」

「おま…無理矢理だなおい」

「無理矢理上等、よし早速帰るか」



まずは看病が先だ!と叫びつつ、俺の肩に手を置いた。

言う事あるなら今言っとけ、って言われた。



「…じゃ、心配かけて悪かったな」

「次会った時はちゃんと元気でね!」

「じゃないと怒っちゃうんだから!」

「じゃないと叩き斬るんだからー」

「「「?!」」」

「…六、それは冗談だよな?」

「あながち本気だ」

「…ガンバッテナオシマス」



最後に物騒な言葉を貰いつつ、瞬きするとそこは大きなお屋敷だった。

ホントに一瞬だな。



「ったく、酷い目にあったぜ」

「それは俺に向けて?」

「当たり前だろ」

「まぁまぁ、いいじゃねーの」



少しは慣れたろ。



そんな事言われたって、慣れないもんは慣れない。

未だに疑いまくってる俺にどうしろと言うんだ。



「慣れる訳がねーだろ」

「あれだ、少しくらい信じてみようぜ」

「どうやって」

「んー…まぁ別に無理だってんならいいけど」

「無理」

「即答かよ…とりあえずさ、あそこに居るやつはお前を傷つけようなんて思っちゃいねぇ」

「…そりゃ分かってる、分かってるがよ」



疑ってしまうんだから仕方ない。

そういう風に生きてきたんだから。



「ま、俺がはっきり言えるのは」



この世界はお前に嘘をついたりはしない。



「って事くらいだな」

「…世界が、ね」

「信じるか信じないかはお前次第だけどな、少しは信じてみようぜ?」

「…気が向いたらな」

「ん、十分だ!」



何だか考えているのが馬鹿らしくなってきた。

とりあえず歩きだそうとしたら、頭がガンガンと殴られているような痛みに襲われてあっという間に暗転した。






生きる癖
(…あれ?)
(あ、起きた)
(…AK?ここどこ)
(病院)
(何で)
(胃に穴とインフルで入院)
(まさかのインフル?!)








――――――――――*
とりあえず疑心暗鬼を題材に
したつもりが何かズレましたね
頭痛>>>>関節痛だったようです

癖は直そうと思えば直せるもの
でも生きていく為には
直せない癖もあるもんですよ

ここまで見て頂き有難う御座いました。


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