雪の季節




握った拳大の雪だまを軽く放れば、津戸の顔面に当たって白が弾けた。ぱらぱらと降り注いだそれに、ぱちぱちと目を瞬きをさせた彼は一言。

「……つめたい」
「だろうな」

未だになにが起こったのかわからない様子で、ぱちくりを繰り返している。長い睫毛に欠片が乗って、小さく光っていた。

「雪を人に投げるなんて、考えらんねえ」
「いいじゃねーか雪合戦。昨日も風紀でやってよ。たまにやると盛り上がるんだよな」
「ゆきがっせん」

今度はきょとんとした顔になり、まるで異国語を聞いたように単語を繰り返す。まさかとは思ったが、更に首を傾げる姿を見てそれが確信に変わった。

「……知らないのか、雪合戦」
「待て。合戦……侍がするやつだな。つまり雪の合戦……雪上の戦争か」
「知らないんだな?」

むすっとした目で見られ、気付かないフリをして再び雪を握った。

「雪だるまを作っていたのかと」
「雪だるまは知ってんのな」
「うちのメイドが作ってくれた」
「クソお坊っちゃまめ」

呆れた。金持ちは外で遊ばないのか。雪は遊ぶものではなく観賞するものなのかもしれない。これではかまくらすら知っているかも危うい。

「雪合戦ってのはな、こうやんだよ」
「ぶっ」

握った雪玉を再び放ってやると、津戸は避ける動作も見せず頭から雪を被った。そこでやっと自身に起こった事を理解したようで、顔をしかめる。

「そうか、わかった。相手に雪を被せれば、いいんだな?」
「ちょっと違うが、大体あってるよ」

むむむとした顔をそのままに、ちょこんと隣に座り込んできた彼は雪を両手で掬うと玉を作り始めた。手袋を嵌めていないその手は赤くなってしまっている。こちらも手袋を用意していなかったため、彼に譲ってやることもできない。考えた末、一心に雪玉を固める津戸の首に、巻いていたマフラーをくれてやった。雪が積もったと生徒会の仕事を終えた彼をそのまま連れてきたのは俺なのだ。

「寒くないかよ」
「ん、あったかい」

うりうりとマフラーに顔を埋めた津戸を見、こちらも雪玉を作り始める。

「目白」
「んー?うおっ」

それから黙々と雪玉を作っていれば、横からばさりと雪が投げ付けられた。しかしどうにも柔らかく、粉々になったそれは制服の裾にパラパラと入り込む。ぞわりと首筋が粟立つのを感じ、慌てて立ち上がった。

「雪玉を固めろ!」
「ちゃんと固めたぞ」
「柔いんだよ!ああくそ、中に入った」

しょうがないと立ち上がった彼は横に並ぶと、こてんと首を傾げこちらを窺ってくる。

「冷たいか?」
「ああ、冷たいよ」
「寒いか?」
「すげえ寒いよ」

そうか、と満足そうに頷いた彼は、徐に赤い右手を差し出してきた。

「俺もだ」

にこにこと幸せそうに笑う彼の鼻頭はほんのりと赤い。そこをぺしりと叩くと冷たい手に驚いたのか飛び上がる。文句を言われる前にと引っ込まれた津戸の手を握り、制服のポケットに強引に詰め込んだ。なかなかに狭いので、指をしっかりと絡ませる。

「……んん!」

一連の動作をぽけっと眺めていた彼は、悔しそうに唸った。それに、いっと歯を見せてやる。
顔を見合わせたのは一瞬、どちらともなく横に並んで歩き出した。

「鍋食いたいなあ」
「じゃあ明日は鍋にしようか」
「それならスーパーいかなきゃな」
「買い物か!買い物なら任せろ!」
「お前は際限なく買うからダメ」
「むっ!!」


2015,0121.
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