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ぴちゃぴちゃと生々しい音が静かな生徒会室に響く。空調の効いた温度は、肌蹴させられた皮膚で否応にも感じ取れた。
 生徒会長の豪華なデスクで何をやっているんだ俺は、と歴代の生徒会長に脳内で頭を下げながら思考を飛ばしていると、咎めるように沢庵の手(どうやら自在に伸びる触手は手らしい。10本まで出せるとかいういらない知識を教えられてしまった)が俺のペニスを扱き上げる。
 それまでにすっかり沢庵の手に慣れた俺は、硬くさせたそれを視界に入れながら漏れそうになる声を必死に抑えて目を閉じた。
 ら、胸やら足やら全身にも絡みつく手の動きをより鮮明に実感してしまい上を向いて天井を見つめた。所々で反射的に拒絶しそうになって動かしていた手は沢庵の別の手によって縛られている。けれどそれはあくまで制する程度の拘束力しかなく、それよりも何よりも。

「ちば、たくあん、すき?」
「…っ」
「すき?」
「あ…っ!好き、好きだ…っ!」

 感覚を挟んで何度も質問を繰り返しては俺に答えさせるこのやり取りにある。段々と洗脳されてるような気がしなくもないこの会話のせいで、俺の思考は今正常じゃないと思いたい。

「たくあんも、ちば、すき」

 …切に思いたい。
 嬉しそうな声に若干高鳴る鼓動を隠すように俺は身じろぎした。それすらも見透かされているかのように手が身体中を窘めるように這い回る。
 先走りがより鮮明に生々しい音を誇張しているその羞恥を聞かされている状態が続く中、ようやくペニスを握っていた手が緩められた。

「は…ぁ…っ」

 それに安心と若干の物足りなさを覚えながら域を吐いた瞬間。手が今までの中で一番強い力で握りこんでカリ部分を擦らせながら上下にスライドさせてきた。

「あ…っ、ぅあ!」

 予想だにしていなかったその快楽に、俺は予備動作もなく煽られるように射精する。普段の自慰行為や他人に擦られる時よりも遥かに刺激の強いそれが一瞬思考回路を止めた。

「ちば、かわいい」
「ふ…っ」

 沢庵の空いた手が俺の唇をこじ開けて咥内を意図した動きで犯しつくす。舌を取られ引っ張られれば、付き出した舌から漏れる唾液が素肌に落ちてその感触にすら身震いした。
 そして沢庵は落ち続ける唾液をもう一本の開いた手で掬い取り、そのままズボンを膝まで脱がされた下半身の方に移動させる。その意図に気付いて俺は思わず足を閉じた。

「ひゃ…っ、くあ…っ」
「ちば、あし、あけて」
「ひ、ひゃだ…っ」

 流石にスライム相手にケツの穴の処女喪失は人としての色々を失いそうで怖い。俺の腹の上に本体を乗せている沢庵を見ながら訴えれば、沢庵は不満げに口を付き出して尖らせた。

「むー、ちば、たくあん、きらい?」

 その質問に対して首を横に振る。嫌いだったらそもそもこの現状まで俺が大人しくしている筈がない。

「じゃあ、すき?」

 それには戸惑いつつ縦に振った。そんな俺に沢庵はふにゃりと目を緩ませて頭を傾げる。

「やさしく、するよ?」

 もう、駄目かもしれない。
 俺は目を閉じて覚悟を決めると、降参とばかりに足の力を緩めた。もしかして俺はこういう犬みたいなタイプに弱いのだろうか。今まで周りにいなかったので気付かなかっただけかもしれない。
 そんな俺に沢庵は体を顔に近付けて目尻に口付けを落とした。それを未だ舌を絡め取られている状態でぼんやり見ながら、また下腹部に移動する沢庵を目で追う。

「ん…っふ、」

 太腿から焦らすようにゆっくりと伝う手の感触に震えながら俺は堪えるように瞬きをした。別の手で足を持ち上げられ、上半身がずり落ち露になった臀部に内股を滑っていた手がゆっくりと窪みにそれを押し当てる。
 ぶるり、と鳥肌が立ち収縮した窪みに、手はゆっくりと掬い取った俺の唾液を絡めながら内部に侵入していった。柔らかさのおかげか痛みはなく、温かい温度が内壁の緊張をも解していくような安心感に俺は少しホッとする。
 そのままゆっくりと侵入を進める沢庵の手は、ある程度まで来た所で次に何かを探すように内部を蠢き出した。まだそれに少し不快感を覚える俺は堪えるように眉間に皺を寄せる。

「はっ、は、ぁ…はっ、」
「ぜんりつせん、どこー?」
「知る、か…っ、あっ!」

 やはりというか何というか、沢庵はどうやら前立腺を探していたらしい。
 俺は恥ずかしさの余りいつの間にか自由になっていた舌を打ちながら吐き捨てるように返事すれば、不意に掠めた一点に苦味のある痺れを漏らして上半身を震わせた。

「ここ?」
「う、あ…っ、そこ、やめ…っ」

 俺はむず痒さと言い得ぬ感覚に、捩る身体を背凭れに押さえつける。そこを優しく押したり滑らせる器用さは自由に動く触手の長所と誉めていいのかは分からないが、徐々に感じつつある快楽に俺は目を固く閉じて息を吐いた。

「は…っ、は、ぅ、ん、ん!」
「もうだいじょーぶ、かなー?」
「俺に…聞くな…っぁ!」

 沢庵は頭を傾げながらも手を俺から引きぬくと、次に何やらもぞもぞと動き出したようだ。片目を開けて様子を伺うと、3本の触手(いや、手か)を重ね合わせて太さを作っている。

「これぐらい?」
「でかいでかいでかい!」
「だいじょーぶ!」
「何が大丈夫なんだ、それ確実に勃起してる俺よりもでかいじゃねーか…!」
「やさしく、するよ?」

 お前はそれを言えば許されると思っているか。頭を傾げてきょとんとした顔でこちらを振り返る沢庵を半眼で睨みつける。
 けれど沢庵はそれを意に介さず太さを増したそれを俺の窪みに押し当てると、先端の形を細くしながらゆっくりと内部に押し入ってきた。

「ふ、ぅ…っ」

 先程よりも圧迫感のある質量に俺は息を吐きながらやり過ごしていると、全部入りきったらしい沢庵が満足そうな表情で俺の眼前まで来て目を細めた。

「ちば、たくあん、すき?」
「…っここまで来て言わせるかそれ!」
「すき?」

 首を傾げて丸い瞳で俺を見る沢庵に、俺は溜め息を吐いて「好きだ」と答えた。
 嬉しそうに体を左右に振る沢庵は、そのまま俺の中に入れた熱を抜き差しする。覚えていた前立腺の場所を掠めるような動きに、俺はもう椅子の上でただ痴態を晒すことしか出来なかった。
 後は頭が溶けたようにぼやっとしていて覚えていない。…いや、とりあえず何度も好きだと言わされた記憶だけは悲しいことに残っている。





「…何ですかそれ」
「…何だろうな」

 俺の親衛隊長が頭の上を指差しながらあんぐりと口を開いている。

「たくあん!ちばの、こいびとー!」

 二人の間に沈黙が流れる中、俺の頭の上に乗った沢庵が嬉しそうに体を左右に振った。

「へ?え…?え?どういうことですか、会長…っ」
「俺も聞きたい…」

 情事の後の睦言で、沢庵に「ちば、たくあんの、こいびとなる?」と聞かれ俺は気だるい体のまま是を意味した言葉を吐いたような気がするのは何となく覚えている。
 ちなみに疲れきって寮に戻る事も出来ず仕方なく仮眠室で睡眠を取ろうとしたら「こいびと、たくあんも、ちばのこいびと」と繰り返す沢庵に2ラウンド目どころかがっつり朝まで付き合わされたのはつい数時間前のことだ。

「まさかそんな…っ」

 口を戦慄かせて震える親衛隊長に俺も出来ればそちらの一般人としての反応側にいきたいと思いつつも、既成事実がそれを許してくれない。今も腰というか尻が普段使わない筋肉を使わされて若干だるいし。

「とりあえず、そういうことだから」

 それでも沢庵が憎めない、むしろ嬉しげに頭の上に納まる可愛さに苦笑しつつ親衛隊長の肩を叩けば、膝から崩れるように座りこんだ。
 敬愛と思慕を向けていた相手がスライムに寝取られるなんて思ってもいなかったのだろう。若干の同情を覚えつつも、俺は彼から逃げるように足早に食堂に向かった。

「お前見たら皆驚くんだろうなぁ…」
「たくあん、みんなにじまん!ちば、たくあんの、こいびと!」
「はいはい」

 その後騒ぎとなった食堂内で沢庵が「しごとしない、だめ!たくあんが、する!」と転入生に取り巻く他の役員に言い張り、何故か役員よりも沢庵の味方をし出した生徒のお陰で役員達はリコールとなった。スライムに負けたあいつらがちょっと可哀相だと思わなくもない。

 そして沢庵の嫉妬深さのせいで新しい役員を選べなかった俺は、けれど一生懸命に業務をこなす姿に愛しさを覚えつつスライムと結婚出来んのかな、と思うぐらいには脳が腐ってきてるような自分に、苦笑した。

 ちなみについ先日沢庵の親衛隊が出来たらしい。おいマジか。



end.



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