一番


 
「うわっ、また土はねた……最悪」
「いちいちそんなこと気にするなよ」
 ちょっと袴に土がかかったくらいで、清光はいつもの如く口を尖らせて文句を言う。畑仕事ももう何度もやってるっていうのに、毎回同じことを言うんだから。
「俺にとってはそんなことじゃないの。土まみれなんて可愛くない」
「そんなに可愛いが大事?」
「そう」
 さも当然のごとく、清光はきっぱりと言い切った。
 

 僕だって清光の愛されたい病はよくわかっている。主に捨てられたくなくて、ずっと愛して欲しくて、だからいつでも綺麗に可愛く着飾って。
 そういう努力を怠らないのはある意味すごいと思うし、僕もその気持ちがまったくわからないわけでもないんだけど……。
「でもさ、主って僕たちにあんまり興味なさそうじゃない?」
 それは日頃から僕が感じている疑問。だって主はほとんど本丸にいないし、一緒にいる時でさえ、僕たちと積極的に関わろうとしている感じもしないから。
「……ま、そう見えるよねー」
 僕のわりと真剣な問いに、清光はそれこそ興味無さそうに適当な相槌を打った。清光はそういう部分に人一倍敏感だし、てっきり僕と同じように感じていると思っていたけど、どうやら違ったらしい。
「……清光はそうは思わない?」
「うーん……まあ最初はちょっとね。でも、よく見てればわかるよ。主は俺たちに興味ないんじゃなくて、ただのめんどくさがりってだけだから」
「それはわかるよ。あの人、何につけても二言目にはすぐめんどくさいって言うし。……え、もしかしてそういうこと?」
「そういうこと。人付き合いっていうか、変に気使ったり使われたり、そういうのめんどくさくて嫌いなんだって。向こうでもそうみたいよ」
「うわー……絶対友達いないよ」
「そうねー。まあでも、こっちから関わる分にはちゃんと応えてくれるから。あからさまに嫌な顔する時もあるけどさ、無下に拒絶されたりはしないよ。主と仲良くなりたいんだったら、自分から話しに行けば?」
「……別に、仲良くなりたいなんて誰も言ってないんだけど。……そういえばさ、主って好きな刀とかいるのかな。近侍も固定じゃないし、誰かを贔屓したりもしてないけど。やっぱりそこまでの興味はないのかなぁ」
 僕はただなんとなく、何の気もなしに思いつきでそう言ってみただけだった。
 けれど、清光は僕の言葉を聞くなり、腹立たしいほどわざとらしい笑みを浮かべて――主が言うところのドヤ顔ってやつかな――得意気に言い放った。

「主の一番は俺だよ」


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