第103χ 科学者と夢の檻 T@




これは困った。
いや、困ったなどでは表現が生温い。
死活問題だ...それも世界規模でな。

制御装置があろうことか壊れてしまった。
その原因は、近くで行われていた少年野球のボールが頭部に直撃したことにある。

将来有望なスラッガーの未来を絶ってやろうかと冗談にも考えたが、今僕が動けばそのスラッガーの未来...もとい人生まで絶ってしまう恐れがある。こればかりは笑えない冗談だ。

制御装置が壊れるどうなるか。
僕はこれがないとボールを投げ返すどころか、日常の動きを制御することもままならなくなってしまう。

例えば、僕が今の状態で壁に寄りかかれば壁はウエハースのように壊れ、人とぶつかったりすればそいつは遥か彼方に飛んでいくだろう。そして、僕が走ればその風圧で周りの人の服を切り裂いてしまう。

つまり、制御装置がない今の僕は世界を破壊するだけの存在でしかないのだ。 平穏な生活を今まで望んで生きてきたのに、僕の所作一つで全てが台無しになってしまう。なんとしても制御装置を修理しなければ...。

僕は暴走する力に振り回されながらなんとか壊れた制御装置のかけらを集めると、復元に挑んだ。勿論、超能力でだ。
しかし、先程も述べたように今の僕にこの力を制御することはできない。
結果、復元したはずの制御装置はパーツごとにバラバラに分かれ、そのパーツ一つ一つが新品かのようになっていた。

どうやら戻りすぎて、組み立てる前の状態になってしまったようだ。
制御装置がここまで壊れてしまった今、この世界に唯一安全なところがあるとしたら自宅だ。早く自宅に戻ってなんとかしなければ。

幸いにも、両親のどちらかはいると家を出る時に聞いていた。テレパシーで呼び寄せることができれば、僕はここから力を使わずに移動することができる。
早速、僕は二人にテレパシーを送ることを試みることにした。

やはりうまくいくはずはなく、両親の声を拾おうと思っても頭の中に流れ込んでくるのは異国の言語ばかり。どうやらテレパシーの能力も性能が上がって地球上のあらゆる声が聞こえてきてしまうらしい。

これでは助けも呼ぶことはできない。
絶えず頭の中に言葉が流れ込んでくるせいで気分が悪くなってきた。...僕はこの制御の効かない超能力に飲み込まれてゆくしかないのか。

...く、...お、く...ん、くす...ん...

う...誰だ、こんな一大事に。
これ以上無駄な言葉は拾いたくないというのに。

「楠雄くんっ!どうしたの?顔色真っ青だよ...?」

ハッと意識を戻すと目の前にいたのはクラスメイトの平凡さん。
彼女も帰りだったのか。しかし、ここにいては彼女も危険な目に遭ってしまう。僕の額に浮かんだ汗を拭こうとしていたのか、思わずハンカチを持った彼女の手を弾いてしまった。
しまった...っ!!今は制御効かないのに!

「い、いきなりご、ごめんね?!」

...飛んでいかない?
そうか、彼女にはあのペンダントがあった。
彼女のペンダントは僕の力を抑止させる力がある。それは以前実証済みだ。
もしかしたら、この場をから脱却できるかもしれない。

「え?ちょ...く、楠雄くん!?」

僕はハンカチを握ったままの平凡さんの手を握って歩き出す。
彼女に触れた途端、頭に流れ込んでくる声がピタリと止んだ。これならそのまま家に帰れるかもしれない。

彼女から戸惑いの声は聞こえてくるが、今はそれどころではない。僕は彼女の手を握ったまま自宅へと急いだ。





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