第103χ 科学者と夢の檻 TA




何が起きたのかさっぱりわからない。

下校途中、河川敷で楠雄くんを見つけた。
なんだか頭を抱えているように見えたから慌てて駆け寄って見たら、その顔は真っ青で今にも倒れてしまいそうだった。

なんとか力になりたくて手を差し伸べれば、おもむろに私の手を握ってズンズンと引っ張っていく楠雄くん。

彼に手を引かれて歩いている間、クラスメイトに見つからないかとヒヤヒヤしていたけれど、その一方でドキドキしている私がいた。こんな力強く引っ張って行ってくれる楠雄くんなんて初めてだから。

フワフワとした気持ちのまま彼のなすがままになっていれば、いつの間にか楠雄くんの家の前まで来ていた。

「私の家は反対だから、そろそろ手を離して欲しいんだけれど...って、楠雄くん!?」

彼は私の言葉に振り向きもしないし、手を離す様子もなく私を連れて家の中に入ってゆく。
そしてたどり着いた先はリビングで、そこでは楠雄くんのご両親はいつものようにラブラブ真っ最中。...なんというか、気まずい。

「す、すみません...お邪魔しています。」
「あら...あらあら、くぅちゃんと人子ちゃん。おかえりなさい。二人手を繋いでどうしたの?もしかして...。」
「おー!楠雄っ!お前にしては随分大胆な帰宅だな。人子ちゃんを連れて来て。」

ニヤニヤとする二人には見向きもせず、楠雄くんは突然パタリとリビングに倒れ込んでしまった。

そんなに具合が悪かったのか。とりあえず肩に腕を回して楠雄くんを大きめのソファーの上に寝かせる。
流石、楠雄くんも周りの男子よりかは華奢だけど男子高校生だ。彼を寝かせるだけでヘトヘトになってしまった。

「え、人子ちゃん!?くぅちゃんに触っても大丈夫なの?」
「...大丈夫、ですけど...何かあったんですか?」

彼を寝かせてひと段落すると、私は彼についてご両親から色々と教えてもらうことができた。

楠雄くんはとある病にかかっていて、頭につけている髪飾りがないと、あのように何もできず脱力状態になってしまうということ。
それと髪飾りがない状態で触れたりすると、触れた相手に害が及ぶ可能性があるということ。
その彼にとって生命線の髪飾りは、楠雄くんの実のお兄さんである空助さんという人にしか直せないということ。

なんだか色々はぐらかされているような気がするけれど、私がここで根掘り葉掘り聞くのも失礼な気がしたので、素直に話を受け入れることにした。

「さっきくぅ君に連絡とれてね、会いに行くことになったわ。条件として人子ちゃんを同行させる約束で。」
「わ、私ですか?...会ったこともないのに。」

そうよねぇと首を傾げる楠雄くんのお母さんにつられるように私も首を傾げる。

私が楠雄くんと出会った時には、この家に子供は彼しかいなかった。それは間違いない。
それなのに空助さんは私のことを知っている。
なぜだろうか。こればかりは直接聞いてみないとわからない。

私が付いて行く決心をしようとしているところ、背後からジリジリ焼け付くような視線を感じる。
恐る恐る振り返って見れば、楠雄くんは寝たままこちらに顔を向けて、何か言いたげに私をじっと見つめてくる。

「...もしかして、私ついて行ったらダメかな。楠雄くんには早く元気になってほしいんだけれど。迷惑かけるようなことはしないから。」

彼をじっと見つめ返してソファーからだらりと落ちた手をそっと握る。私の気持ちがどうか楠雄くんに届きますように。

私の気持ちが通じたのか、楠雄くんはいつものように仕方ないとため息を吐き出す。どうやら許可が下りたようだ。

お兄さんのいるイギリス出発は三日後...私はこの時、あんなことになるなんて想像すらしていなかった。

To be continued...





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