第118χ レンタルビデオショップに行こうA




「人違いだー!!」

突如、棚の裏側から聞こえてきた声にビクッと身体が跳ね、その犯人が気になって棚で身体を隠しながらこっそりと覗いてみる。

声の主は聞き覚えがあるから何となく想像はついていたが...やはりその声の主はクラスメイトの高橋くん。
そしてこの目に移った光景は高橋くんが楠雄くんに何やら土下座しているところ。

「頼む!!みんなには内緒にしてくれ!!このとーりだ!!な!?」

その一言でなんとなく察しがついた。
二人のいる更に奥には18歳未満お断りの暖簾がかかっている。つまりその奥には大人向けのDVDがあるということ。
高橋くんは年齢を偽ってそのDVDを借りに来て、それをうっかり楠雄くんに見られてしまったから口止めをしようとしているのだろう。

しかし、そんなに懇願する必要があるのだろうか。
私だけではなくクラスメイト一同、高橋くんが大人向けDVDを借りていたと言っても不思議がる人間はいないような気がする。
つまり、私達が彼に抱く印象はそういうものなのだ。

気になっていたことも無事に解決し、再びビデオの物色を行おうと踵を返した瞬間...。

「平凡、お前も絶対言うなよ!?」

なんという目敏さだ。
私は少々彼を侮っていたような...いや、今の状況だから彼の嗅覚が鋭くなっていたせいなのかもしれない。
私は諦めて二人のもとへ。

「うん、言わないよ。プライベートなことだし。」
「絶対言うなよ!?約束だからな!!」

高橋くんは私の言葉に安堵したようにパッと顔を明るくすると、あっという間にレジに向かい去ってしまった。

やれやれ、面倒くさい人間は去ったことだし借りるものを探さなきゃ、一日はあっという間に終わってしまう。。

棚に身体を向けて作品を探そうとするとポンと肩を叩かれた...勿論、肩を叩いてきた人物は楠雄くん。
彼の方に目をやれば、私の顔と手に持ったカゴを交互に見ている。そして差し出されたのは一枚のDVD。

「...もしかして、一緒に借りてほしいとか?」

私の問いに刻々と頷く楠雄くん。
レンタルカードでも忘れたのだろうか。彼にしては珍しいミスをするものだ。

そんなことを思いながらカゴを差し出せば、楠雄くんはDVDを籠の中へ入れた。

「私、もう少し探したいものあるから少し待っててもらってもいい?楠雄くんも借りたいものあったら追加していいからね。」

楠雄くんの顔がパッと明るくなったかと思えば、他にも借りたいものがあったのだろう別の棚へ行ってしまった。
私はその笑顔に胸をグッと鷲掴みされたような感覚を抱きつつ、引き続きDVD探しを再開した。

「楠雄くんもこれで全部?」

そして二人とも借りたいものが決まると早速レジへ。しかし、私は店員さんのいるレジを華麗にスルーして無人レジへ。

今の時代、本当に便利になったものでレジも人がいなくてもできるようになった。人機械の操作に慣れない内は不便だったりするが、慣れれば人とのやり取りもしなくて済むから気楽だし、ポイントも倍付けされたりと思いの他便利だったりする。

私は手慣れた手つきでレジを操作していると、楠雄くんは物珍しそうに私の操作をジッと見つめている。その瞳はキラキラと輝いていてなんとも子供が新しいおもちゃを見つけたような顔だ。

別に見られてやましいものはないけれど、彼にじっと見つめられるのはどうにも落ち着かない。

「ありがとうございましたー。」

すべての商品をスキャンしてお金を払えば、それぞれ借りたいものを袋に詰めて、店外へ。

レジ打ちの途中、高橋くんがお店の人に捕まっていて私達に目線で助けを求めていたけど、知らないふりをしてやった。誰にも言わないということは、私は何も見ていないと同義だから。

結局、二人合わせて10枚近く借りてしまった。
これもまたレンタルビデオショップの魔力だとしみじみ感じながら、私達は家路についた。





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