第106χ 科学者と夢の檻 W@




こんなもの出来レースだ。

相手はロンドンの地形を熟知し、なおかつあらゆる場所に取り付けられた監視カメラから市内の様子を知ることができる。
一方、僕はツレのお陰で超能力は制限され、監視カメラから逃れて隠れることが出来る場所を制限時間内で見つけ出さなければならない。

一般人であれば、30分もかからずに捕まってしまうだろう。今の僕もこの制約の中では同じ...だが、そう易々と捕まるつもりはない。
なぜならば、この勝負にはあるものが賭けられているからだ。

その賭けの対象であるのが平凡さん。
アイツと彼女がどういう関係かは知らないし、なぜ駆け引きに平凡さんを引き合いに出してきたのか...僕に挑発したかっただけなのか、それとも...。

アイツの目的は置いておいて、僕のワガママでここまで嫌な顔一つせず付いてきてくれた彼女を無事に家へ返す義務が僕にはある。だから絶対に負けられない。

「いきなりイギリスに連れてきたと思ったら今度は鬼ごっこ...?訳わからんぞ斉木。」
「へへっ、相棒のニーチャン変わってっよな。」

そうだったな、お前達もアイツの戯れに巻き込まれた口だったな。安心しろ、大人しく僕のやることに従ってさえくれれば必ず家に届けてやる。

「普段からダークリユニオンによる追っ手に慣れたこの俺にオーガチェイスを挑むとはな...。」
「オウ...上等だぜ。鬼ごっこの燃ちゃんたぁオレっちの事よ!」

二人の実に頼もしい言葉を聞き流しながら逃げ道を探す。簡単に捕まらないためには、より早くより遠くに移動するのが一番効率的だろう。

地図によればこの近くに地下鉄の入り口があるようだ。電車であれば、素早く長い距離を移動することが出来る。これほど今の状況に適した乗り物はない。僕らは早速地下鉄乗り場へ向かった。

「あっ!!地下鉄動いてないぞ!!」

駅へと入る入り口はシャッターが閉まっており、シャッターには張り紙が貼り付けてある。そこにはストライキの文字が。
あの野郎...これを知っていて鬼ごっこなんて言いやがったのか。

「チッ...こうなったらバスかタクシーで少しでも...。」

海藤の声に近くにあるバスストップに視線を向けるも、そこには既に行列ができていた。
皆考えることは同じで地下鉄が使えないからバスを利用する客が増えたのだろう。

このままバスを待っていたら簡単に捕まってしまう。くっ...どうしたらいいんだ...?

ふと地下鉄側の備え付けられた自転車が目に入った...そうか、ポリスバイクがあるじゃないか。丁度三人分ある...これならいける。
僕達は自転車に跨ると奴に遭遇しないよう監視カメラに注意しながらロンドンの街を駆け抜けた。

「何とか撒いたみてェだけど...ここはどこだ...デパートか?」

ハロッズだな。
ここにも監視カメラはたくさんあるが、外を出歩くよりかはマシだろう。出来るだけ目立たないようにしなければ、だが。

『本日はご来店頂きまことにありがとうございます。お客様に迷子のお知らせです。』

...ん?この声は。
とんだ濡れ衣を着せられているが、どうやら僕達を探すアナウンスのようだ。周りもそのアナウンスが僕達だと気付いたようでヒソヒソと疑いの声が聞こえてくる。

「アイツらだー!」
「捕まえろー!!」

周りにいた客達が一斉に僕ら目掛けて駆け寄ってきた...これは不味い。
僕らは客がいない方へ全力で駆け抜け、ようやく空いていた個室のトイレへ避難することに成功した。
あとはアイツにそれが気付かれないことを願うしかない。

しばらくじっとしていれば、個室のドアを叩く音や罵声が止んだ。どうやらアイツが場を丸く収めたらしい。そもそもその種を蒔いたのもアイツだけどな。

「さぁチェックメイトだ、楠雄。...長い戦いだった。もう逃げられない...。これで終わりだ!!」

そうだな、これで僕達の争いも最後だ。
アンタの敗北をもってな。

僕の制御装置に発信機をつけてくれたようだが、発信機じゃ位置は特定できても高低差まではわからない。僕達が逃げたのは一階上のトイレだったという訳だ。

僕達の勝ちだ。





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