「...え?...お兄ちゃん来たの...?」
「来たと言うか、こちらからお邪魔してしまったと言うか...とりあえず、撮影現場の件よろしくね。」
よくわからないと首を傾げる照橋さんだが、私は伝えることは伝えた。あとは照橋さんの行動次第だ。そこはもう私の守備範囲外なので好きにしてくれてかまわない。
けれど、アレだけは伝えておいた方がいいかもしれない。一応、照橋さんも知っておく権利はあるだろうし。
私はこの時、とんでもない過ちを犯してしまった。今思えばこのおしゃべりな口を縫い付けておくべきだったと思う。
「照橋さん、お兄さんがお邪魔したのは楠雄くんの方だから彼にも一言言っておくといいかもしれないよ。」
「さ、さささ...斉木が!?」
顔を真っ赤にして明らかに動揺している。彼女は楠雄くんが好きだから当然といえば当然なのだけれど...私からしたら複雑な気分だ。
照橋さんは楠雄くんを見つけるとすぐに歩み寄って何やら話をしている。遠くてここからでは聞こえない。会話中にちらりと楠雄くんと目があった気がするが...気のせいだろう。私は帰り支度をするために教室に戻った。
一通り教科書をカバンに詰める。今日は燃堂くん達からの誘いもないし、ゆっくりできそうだと考えていれば、物凄く鋭い視線が私を貫いたようで、ぞくっと背筋が凍るような感覚がした。
これは見なくてもわかる。彼の仕業だ。
なんだ、君一人で帰るのか?この僕に面倒なことを押し付けて、君は帰って悠々自適に過ごすんだな。羨ましい限りだ。キミの余計な一言で、僕はこれから照橋さんに付き合わされると言うのに。
これは私が勝手にイメージした楠雄くんの言葉なのだけれど、あながち間違っていないと思う。少なからずプラスの気持ちはこもってないだろう。
「お...お供させていただきたいと思います。」
彼に向かい深々お辞儀をしながら言葉を発すると、よろしい。そんな楠雄くんの声がした気がした。
そんなことで照橋さん、楠雄くん、そして私のトリプルデートが始まった。
やって来たのは隣町。ここで撮影が終わるまで時間潰しをするらしい。私が付いてくるとわかった時、照橋さんは怪訝な表情をしていたけれど、楠雄くんが礼をするなら私にもするべきだとか言って丸め込んだのだろう。わざわざそんなことしなくてもいいのに。
そして当の本人である照橋さんはノリノリである。背後からではわからないけれど、向かいからやって来る人達の表情が緩むところ、照橋さんはとてもいい顔をしているに違いない。
「斉木くんと平凡さんは甘いモノって平気?」
「うん、大丈夫だけど...」
どうやらカフェに入るつもりらしい。照橋さんオススメというくらいだし興味あるけれど...しかし、そのお店は今日はお休みで入ることは叶わなかった。
その後も1時間かけて探して見てもお茶できるところは見つからない。周りに見えるのは畳屋、ハンコ屋、婦人服店...商店街というものは大体そういうものである。
照橋さんも流石に諦めたのか、トボトボと駅に向かって歩き出そうとしている。それでいい。避難場所はここだけじゃないしね。
「な...何か...お困りでしょうか?」
「...えっと...こ、この辺でお茶出来る所探してて...」
声をかけて来たのは見知らぬ男性達。多分、照橋さんが困った顔しているのが耐えられなくて声をかけたのだろう。
おかげでカフェは見つかったのは良いけれど...照橋さんは男性陣に囲まれて、おっふ祭り状態だった。
美少女というものはこんなにも優遇されるものなのか...私も生まれ変わったら絶世の美女になりたいものだ。いや、やっぱり生まれ変わってもこのままがいいかな。穏やかに暮らすのが一番だ。
To be continued...