第72χ 盛り上がれ、PK文化ψ!(後編)@




文化祭にて他クラスの出し物を楠雄くん達と回っていたのだけれど、うっかり単独行動した結果...見事にみんなと逸れてしまい、私は一人で自身の教室に来ている。

案の定、うちのクラスの出し物が展示だけあり人はまばらで、ここでは文化祭の騒がしさは感じられない。これならまったり過ごせそうだと、展示品を見張るための椅子に腰掛けて読みかけの小説を開いた。

窓際に座っているおかげで心地よい日の温かなさに段々と眠気がやってきて、いつの間にかウトウトうたた寝をしてしまった。
ザワザワと遠くで聞こえてきた声にハッと目を覚ますと、そこにはいつの間にか人集りが出来ていた。人集りの中心には燃堂くんにそっくりな石像が佇んでいる。

一体何が起こったのかと、現状を確かめようと辺りをキョロキョロと見回してみれば、教室の後ろ側に楠雄くんと楠雄くんのお父さんがいた。おじさんはあわあわと口をパクパクして明らかに動揺している。

「楠雄くん達戻ってたんだ。...それにしてもあの石像燃堂くんに似てるね。と言うより、本人は...?」

私の言葉にビクッと小さく肩を震わせる二人に首を傾げていると、教室に入って来たのはセクハ...校長先生だ。

「おや!これは凄いですねぇー。素晴らしく精巧な石像ですね...ゴリラかな?」

校長先生は燃堂くんらしき石像を見るなり、感嘆の声を上げて観察するようにそれを見つめている。
校長先生の言うように、近寄ってよくよく見てみれば、髪の毛の造りや肌の質感が異常に細かいことがわかる。まるで本人をそのまま固めたような...。

「私、感動しました!最優秀クラス出し物は巛組に決定です!」

その言葉に教室にいたクラスメイト達のテンションが上がったようで、クラス内が一気に盛り上がりを見せた。周りにいた観覧客も、我先にと石像の前に押し寄せてくる。中には硬さを確かめるように叩いてみたり、ペタペタと触ったりしている人もいる。

「Don't touch!Keep out!!」
「何か怖いオッサンが叫んでるぞ!!不審者だオイ!」

おじさんは生徒の悪戯から石像を守るように、触れる手を掴んで大声で忠告するも、たちまちやって来た先生によって教室から引きずられて行ってしまった。
それにしてもなぜ警告が英語だったのだろうか。それに楠雄くんが慌てるならまだしも、おじさんが慌てる理由がわからない。
けれど、おじさんの身体を張った行動のおかげで石像の安全は護られた...と思いきや、今度はいつの間にか遊太くんが石像の肩に乗っかっているではないか。

「くらえーコーラ男爵ー、ブブブブブー!」
「ダメよ!遊太コラ!」

遊太くんのお母さんが怒っても、遊太くんはその石像の上から離れようとしない。ただでさえ台座もなく置かれただけの石像だ。反動で倒れようものなら怪我人は避けられないだろう。

その予想は見事に的中して、無情にも遊太くんの乗っかっていた背中側から石像は倒れていく。私は咄嗟に石像に駆け寄ると、差し出された遊太くんの腕を掴んで引っ張り上げた。
咄嗟の勢いだったもので、遊太くんを腕の中に抱えると床に背中を打ち付けるような形で私も倒れてしまった。背中がジワジワと痛むけれど遊太くんは無事なようだ...よかった。

「...斉木くん!?」

その声に石像の方に視線を向ければ、楠雄くんは石像の下敷きとなっていた。先程まで私の隣にいたのに。石像を守るためにわざわざ...?
楠雄くんのおかげでなんとか石像は壊れずに済んだようだ。

「オイ、大丈夫かよ斉木!」
「待ってて、今どかすから...!」

灰呂くんと海藤くんが石像を持ち上げている間に、私は楠雄くんの手を引っ張って立たせる。幸い、楠雄くんも怪我はないようでホッとした。

「よォ、灰呂。あの石像お前達が造ったんだろ?」
「いや、僕らじゃないよ。」

確かにこの石像は誰が造ったのかはわからない。私がうたた寝している間に置かれたものだし。
燃堂くんは本人なのだろうか。いや...それならほら、見てみろよーと彼自身が自慢げに話しにくるだろうし、失礼だけれど燃堂くんがこんなに繊細なものを造れるとは思えない。

「斉木くんだろ!?身を挺して石像をキャッチするなんて、思い入れのある作者でもなければできないよ。」

灰呂くんの言葉に、楠雄くんの方へ一斉に目線が集中する。楠雄くんならこれくらいは造れるような気がするが、これだけのものを一週間で本当に造れるのだろうか。
それにしても...この作品はガチである。

「...楠雄くんが、造ったんじゃないよね。」

恐る恐る横に立つ彼にボソッと問いかけてみれば、なんとも言えない表情を浮かべている。これに関してはこれ以上突かない方がいいのかもしれない。

今気付いたのだけれど、楠雄くんの眼鏡がいつの間にか変わっている。いつもはカラー入りのメガネだったからわからなかったけれど、瞳の色は深い紫色をしていて、なんとも幻想的だ。特別なものを見た気がして得した気分になってしまった。

「楠雄くん、あのカフェでコーヒーゼリーでも食べに行こうか。今日はこのあいだのお返しで奢るからさ。」

私の提案に瞳を輝かせて頷く楠雄くんを連れて、私達はこっそり教室を抜け出した。
そんなこんなで、私達の文化祭は成功を収める形で幕を閉じた。

そう言えば鳥束くん率いるEDVのライブ見るのを忘れてしまった。楠雄くんの幸せそうな食事風景も見られたし...別にいいか。

The END





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