第67χ IFの世界 -Reverse- A




学校にたどり着けば、まずは様子確認のため自席に座るとキョロキョロと辺りを見回してみる。とりあえず知り合いくらいの状況は知っておきたい。異世界だけれど、私のポジションは崩したくないからだ。

最初に目に留まったのは灰呂くん。灰呂くんはいつものように男子に囲まれながら、朝から熱く何かを語っている。この世界での彼は私の知っている彼となんら変わりないようだ。

次に視線を移動させれば、もう1つの人集りを見つけた。中心人物を透視能力で確認してみれば...あの筋肉量と華奢な骨格は照橋さんだろう。相変わらず男子に囲まれて、彼女も灰呂くんと変わりないポジションにいるようだ。

今日の私も絶好調ね。なぜなら私は美少女だから!

心の声もいつもと変わらない。見た目がいいだけに、心の声が聞こえてくると何というか...何とも言えない気持ちにさせられる。

そんなことを考えていると、誰かが教室に入って来た。確認してみれば燃堂くんと海藤くん。彼らは目に見えて変化していることに気付いた。

まずは海藤くん。私の世界での彼は漆黒の翼としてダークリユニオンを駆逐するために、日々信者を集めて活動を行っている。わざわざ教室でその集会を行うものだから煩くて朝からイラつくことが多かったけれど、ここでの彼はそこまでの高みには達していない模様。

フフッ、今日もダークリユニオンの手下を四、五人突き止めたぞ。そろそろ漆黒の翼の出番か。

中身はどうやら変わらないらしい。そこには少し安心してしまった。

次に燃堂くん、普段通りに振舞っているように見えるけれど...彼からは心の声が聞こえてこない。こんなことがあるのだろうか!もしかしたら彼も超能力者として生活をしているのではないだろうか。

「お?おっ?」

...何を言いたいのかは分からないけれど、恐らく彼は超能力者ではなく、超能力では測れないほどにアレなのではないだろうか。もっと綺麗な言葉を使うと本能で動く性格と言うべきか。こんなところで思わぬ脅威を見つけてしまった。彼の行動には要注意だ。

しばらく周りを眺めているとようやく目的の彼がやって来た。彼はこの世界ではどういうポジションなのだろう。

おはよう、楠雄。今日も一日よろしくね?
...どういうことだ。何で平凡さんがテレパシーをっ。


いつものようにテレパシーで挨拶すると、楠雄は目を見開いてこちらをじっと見つめてくる。もしかしてこの世界の私は超能力を使うことができないのだろうか。もしくは使えるのに周囲には隠しているとか。
そうであるならばやってしまった...咄嗟に視線を逸らして窓の方に顔を向けるも、急に彼に腕を掴まれてそのまま何処かに引っ張られていく。

やって来たのは学校裏。人目を憚ってのことだろう。ようやく解放されたかと思ってみれば、楠雄は仁王立ちで私を見つめている。きっとうっかり使ってしまった超能力について問いただすつもりなのだろう。

どういうことか説明してもらおうか。
『どうもこうも、私の方が楠雄に色々聞きたいくらいだよ。起きたら私は私の世界によく似た場所にいたの。こんなことできるのは楠雄くらいしかいないでしょう?』

普段通り楠雄、と呼んでいるけれどその度に彼の眉がピクッと反応している。...なるほど、この世界の私と彼の立ち位置も違うのか。

『私情だけれど、気になるみたいだから一応話しておくね。私の世界での私と楠雄の関係は恋人同士だから。それと私が超能力使えるのは君のおかげなんだからね。』

そう、あの日...楠雄が超能力者であることを知った私は、屋上で彼の真意を聞くことでとある決断した。それは彼と共に超能力者になってこの世界を救いたいと。
楠雄も最初は渋っていたけれど、私の気持ちが本気だとわかるとマインドコントロールを使って、私を超能力者にしてくれた。この時から私は楠雄の恋人にもなったのだ。

長い沈黙が続いている。何かを考えているのだろうか。彼の表情の読み取れなさはこの世界でも変わらないみたいだ。喜んでいいのか...段々モヤモヤとして来た。

『これ以上話がいないなら私は行くね。人前では超能力は使わないようにするから。』

踵を返して教室に戻ろうとすれば、目の前にはまたもや楠雄がいる。それに...私も?

「やっと...見つけた、もう一人の私。」
『貴女が、この世界での私?』

何だか鏡を見ているようで不思議な気分になる。
そのもう一人の私が私の楠雄と一緒にいたということは、この世界の私と入れ替わって彼女は私の世界にいたということになるのだろう。何だかややこしい。

仁子...やっと見つけた。さぁ、僕達の世界に帰ろう。
『うん、この世界はどうも窮屈で私は合わないみたいだし。』

私の楠雄が手を差し伸べてくれた。私はその手を取って彼の元へ。
もう一人の私とのすれ違いざまに口を開こうとしたけれど、すぐにキュッと唇を結ぶ。言っておきたいことがあったのだけれど、それはやめておくことにした。きっと彼女には彼女の生き方があるのだから。

ゆっくりと彼の手が離れて行く。目の前には私の世界が確かに存在している。そして隣では私の楠雄がいつもと変わりない笑顔で微笑みかけてくれる。やっと帰ってこられた。

ただいま、私の世界。





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